「嗚呼、なんて脆いんだろうか」

俺の呟きは燃え盛る炎の音に消えていった。空はすっかり曇っていて、いつ泣きはじめてもおかしくはない。

ヒュッ、音がして反射的に杖でそれを防いだ。明らかに攻撃系の魔法だ。飛んできた方を見れば、俺を睨み付けてくる少女と少女を支えるようにそばにたっている少年。少女は肩で息をしていて、片足にひどい怪我を負っている。

五年のディムちゃんと裂牙くんだ。

ディムちゃんがまるで親の仇を見つけたような顔をした。いや、実際俺はディムちゃんの親の仇みたいなものだけど。

「レジー……てめぇ、自分が何したかわかってるのか!!」
「何人も人が死んだ。何人もだ」

ディムちゃんとは打って変わって落ち着いた声だった。裂牙くんが静かに睨み付けてくる。
嗚呼、ごめん。ごめんなさい、わかってるんだ、わかってるんだよ。俺がやったことはいけないことくらい。赤子でもわかる。だって、7年間育ったこの城を裏切って、あの方の侵入を手伝ったんだもの。あの方には、絶対に従わないって決めてたのに。それは今も変わらないはずなのに――

「城にあの方を招いてあげただけだよ?嗚呼、それから火をつけたね。それが?」

こんなこと、言いたくなんてない。

「ふざけるなよ……、お前が!お前のせいで!!アルディは……!!!!」
「ディム、落ち着け」

死んだか。一瞬でわかった。デスイーターの誰かが殺したんだろう。

「虎銀さんもいない今スリザリンは無力…、これ以上戦力は削げないですよね」

クスクス笑いながら俺の後ろに誰か降りてきた。ほうきにバランス良く乗った彼は、4年のセイロンくんだ。両手で大切そうに少年を抱き抱えている。金色の髪に赤いフード――シードくんだ。血だらけで、まるで眠ってるみたいだった。
セイロンくんは静かに涙を流していたけど、それにすら気づいてないようだった。

「ここは一旦引くことをおすすめしますが?」
「っ……シード……!」

ディムちゃんの瞳が揺れた。裂牙くんが目をそらした。
シードくんがいない、つまりそれはグリフィンドールの戦力が著しく低下したことを表している。だって、シードくんの攻撃魔法は同じ5年生の中でもずば抜けているから。

「……セイロンくん、虎銀がいないって?」
「貴方のご両親が片付けていましたよ」
「…そう」

ホロリと涙が零れた。ポロポロと涙が流れて、心は泣き叫んでいるのに。表情は変わらない。
ディムちゃんが目に涙を溜めて声をあらげた。

「…それだけかよ。7年間ずっと連れ添ってきた親友を亡くして!!それだけなのかよ!!」
「あの方のためなら、犠牲は付き物でしょう?」
「貴様っ……!」

裂牙くんが杖を構えた。俺に向けて叫ぶようにして呪文を唱える。

「インセンディオ!!(燃えよ!)」
「アグアメンティ(水よ)」

裂牙くんの杖の先から出た炎をセイロンくんが反対呪文で相殺する。
相殺された反動で、裂牙くんとディムちゃんが吹き飛ばされた。

「…アクシオ(来い) エンプティドランゴン」

杖を空へ向けて呪文を唱えれば、何処からともなく俺のほうきが飛んでくる。それに飛び乗って、その場をあとにした。
下からディムちゃんと裂牙くんの叫び声が聞こえてくる。でも、それは無視した。後ろからはセイロンくんがついてきている。変わらず、腕の中にはシードくんの姿。
燃え盛るホグワーツを背に、闇の帝王の元へと飛んでいく。
表情は変わらない、でも涙だけはポロポロと流れ続けた。

「…ごめんなさい」

俺の一瞬の抵抗。だけど、それからはもう完全に、俺の意識は呪われた呪文によって消えていった――

(ひとつの結末)


『インペリオ』…許されざる呪文。服従の呪文。

レジー及びセイロンくんが闇の帝王により服従の呪文をかけられ、ホグワーツを裏切ることを余儀なくされた話。

裂牙さん、セイロンくん、シードさん、虎銀さん、お借りしました。


死ねたに見えるけど、みんな重傷で止まってます!()





一つの結末




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