みんなで見たあの流星群を、私は一生忘れないだろう―――


《夜明けの流星群》



「……ん」

どんどんと叩く音に目が覚めた。暗い部屋の中でむくりと起き上がった私は、ゆっくりと音の原因であろう窓を見る。ガタガタと揺れて鈍い音を立てているのを見て、嗚呼、風かと息をついた。
外は明るくなり始めていて、夜明け前だとわかる。ヒュオオオと微かに風の音が聞こえた。吹き荒れた風は、変わらず窓をノックしている。

「………」

激しく窓を叩く吹き荒れた風に、私は言いようもない不安に駆られた。
そう、何かの前触れのような、そんな感じだ。




翌朝、私の不安は的中した。
実家からの緊急招集だ。お父様が亡くなって家を飛び出してから、帰らなくなった家。ただ大きいだけで冷たい家。
帰りたくなんてない。向こうも何も言ってこなかった。なんで今更。それが本音だ。
でも、帰らなければ何を言われることやら。

結果、私は今日一日有休を貰うことにした。
私の家柄を何となくだが理解しているらしいディル大佐には、心配気な顔をされたけれど。

「大丈夫ですよ!私の家、そんなに遠くないですし。ちゃちゃーっと行ってちゃちゃーっと夕方には帰ってきますから!」

ニッコリと笑って言ってのければ、ディル大佐は渋々ながら引き下がってくれた。


必要なものを鞄にまとめて軍の施設を出る。此処から車で数時間のところに私の家がある。まずは車の乗り場へ向かうかと足を動かしたときだ。

「ダイアナ!」

不意に聞こえた馴染のある声に、体が止まった。
この声を聞く前に出たかったのに。
溢れ出しそうになる涙を堪えて振り返る。

「あれぇー、ばかちゃんさんにかほちゃんさん、どうしたんですか?」
「どうしたんですか?じゃねぇよ」
「実家に帰るって聞いて、飛び出してきたんだよ」

ピンッと高継くんからのデコピン攻撃に額を抑える。
というか、飛び出してきたって……。

「ちょっと行ってくるだけですよ。すぐ帰ってきます」
「え、そうなのか?」

ポカーンとした表情の伽北くんに、きっとディル大佐が余計な事を言ったのだと理解した。

「ディルさんがお前が軍辞めるとか言って………」

やっぱり。内心でため息をついた。
クスクスと笑って二人を見やる。

「何ですかそれー。あり得ないですよ」

ニッコリと笑うと二人はどこか安心したように笑ってくれた。
私は軍人で、私の帰るべき場所はここだ。その想いは失くすことはないだろう。
不意に、伽北くんが心配そうに眉間にしわを寄せた。

「帰って、くるよな?」

その言葉に、一瞬胸が締め付けられた。私は帰ってこれるのだろうか。もし、万が一何かがあったら、私はもう彼らと出会うことは出来ないのだろうか。なんて、考えすぎですよね。
ぱっと笑みを浮かべてからかうような声音を出した。

「何ですかぁ?寂しいんですかかほちゃんさんー」
「ええ、まじでー?寂しいのかほちゃんー」
「ちゃん付けはやめろ!後寂しくねぇよ!」

乗ってくれた高継くんの頭を伽北くんが殴った。私を殴らないのはきっと、私が女の子だからだろう。そんなこと気にしないでいいのに。ほら、高継くんが頭を抑えながら『なんで俺だけ』って文句言ってる。
気がつけば私の手は伽北くんの手を握っていた。突然のことで驚いたのか、ビクリと手が揺れる。それをきつく握りしめ、彼の目を見て言った。

「大丈夫。夕方には帰ってきます。ね?」

まるでそれは自分に言い聞かせているかのようだった。
目を真っ直ぐ見て言えば、伽北くんはわかったよ、とため息をひとつついていた。

「それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「気をつけろよー」

二人の声を背中で聞きながら、歩き出す。軍の施設が見えなくなったところで、自分の手を見た。まだ、温もりが残っている。あんなに強く握って大丈夫だったのかな。大丈夫ですよね、だって伽北くんですし。なんて、根拠もないようなことを言って小さく笑った。

大丈夫、私はちゃんと戻ってこれる。

彼らも見ているであろうこの同じ空を見上げ、私は小さく、そう呟いた。




夜明けの流星群




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