珍しいと思った。
酒に強いこいつ(強いどころの話ではないが)が、まさか飲んでいる途中で眠るとは。

今日も何時ものように俺が酒を持っていって、蒼刃のお気に入りの場所で酒を酌み交わしていた。
蒼刃がお気に入りだと言うのも分かる。この場所は小高い丘で、海が一望できた。月明かりに照らされてキラキラ光る海は綺麗で、空を見上げれば満天の星。
この場所が俺のお気に入りになるのにも、時間はそうかからなかった。

それから、いつものことだが随分な時間、二人で飲んでいた。普段なら俺はそろそろバテ始めている頃合いだ。だが、今日はやけに目が覚めている。珍しいな、この俺が。と思ったのも束の間。隣で蒼刃が突然、“眠い”と言って横になったのだ。
驚きしかなかった。
蒼刃が飲んでいる途中で眠いなんて言葉を発したことがなかったからだ。
髪をほどいてその場でゴロゴロと転がり、寝心地のいい場所を探している。

「……珍しいな。お前が俺より先に寝ようとするなんて」
「んー…?あぁ、…多分疲れてるんだろうな」
「今回の航海はそんなに大変だったのか?」
「いんや……、煌青(こうせい)さんの相手してて…疲れたんだと思う」

煌青といえば、蒼刃の養父だったか。一度会ったことはあるが、面倒くさそうな人だった。

――確かに、あの手のタイプの相手は疲れるな

色々苦労しているんだろう。
俺はそのまま蒼刃を寝かしてやることにした。未だにゴロゴロ転がって寝心地のいい場所を探している。と、思えばはっとなって突然俺の膝の上に頭を乗せてきた。

「………おい」
「………違うな」

当たり前だと叩き落とす。額を打ったらしくそこを擦りながら、しぶしぶ上着を脱いでそれを枕がわりに横になる。初めからそうすりゃよかっただろうに。

やがて、寝息が聞こえてくる。ちらりと見れば、まるで餓鬼みたいに安心しきった顔で寝てるではないか。長い髪を払い除けてやってから、俺も横になる。生憎、何時もよりは目が冴えていると言っても足は酔いで覚束ない。そんな状態では俺一人で宿に戻ること、ましてや蒼刃を連れて戻ることなど不可能だろう。

仰向けになれば、満天の星空が目にはいる。静かな波の音を聞きながら、俺はゆっくりと目を閉じた。


*********

目が覚めたら頭痛がした。嗚呼、二日酔いかと理解する。当然のことながら、目が覚めた場所も昨日と同じ丘の上。かなり早い時間に目が覚めたのか、朝日はまだ低い位置にあった。

「……くそ、」

いまだ横で寝ている蒼刃を見て悪態をつく。俺一人でならなんとか戻れるが、この頭痛では蒼刃をつれてはいけないだろう。というか、身長的に色々と問題がある。

どうしたものかと痛む頭で考えていたときだった。後ろから少女の声が聞こえた。

「やはりここにいたか」
「……葵紀」

緑の髪をツインテールにした少女が、あきれた風に近寄ってきた。蒼刃の恋人の葵紀だ。
葵紀はゆっくり近より、蒼刃が寝ているのを見て目を見開いた。

「戻ってこないと思ったら。まさかこいつまで寝入っていたとはな」
「珍しいよな」

そうだな、そう呟いてから葵紀はよっこいせと蒼刃をおぶる。彼女より倍はあろう身長の蒼刃を簡単におぶるなんて、相変わらず侮れない腕力だ。身長的に足を引きずる形になってしまっているが、それはいつものことだ。
俺も以前、彼女の世話になったことがあった。…らしい。寝ていて記憶はないが。

帰路についていると、葵紀が突然小さく吹き出した。
そんな彼女を訝しげに見る。

「なんだ?」
「ふふ…すまない。こんなに安心しきって眠っている蒼刃を見るのは初めてでな。グライト、お前は本当に彼に信頼されているんだな」

“妬いてしまいそうだ”、とにっこり笑っていった彼女に苦笑を返す。彼女に恨まれたりでもしたら何て考えたくない。

「グライト」

ふと名前を呼ばれ、返事をすると葵紀が至極真面目な顔で、真っ直ぐその青い瞳に俺を写して口を開いた。

「これからも、蒼刃をよろしく頼む」

海のように青いその瞳を真っ向に受けながら、頷いた。

「こちらこそよろしく頼むな」
「くすっ、伝えておいてやろう」
「どうも」

苦笑と共に返すと、彼女はまたクスクスと笑った。

(どこまでも世話になってやる)


(え!?俺葵紀におぶられて帰ったのか!?)
(どっちが彼女か分かったものじゃないな)
(うわぁあっっ!!言うなぁぁあッッ!!!)


夜鬼様宅 ラムパルド♂/グライトさん

お借りしました!




どこまでも世話になってやる




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