突然店にやって来たと思ったら、遠慮のないローキックが飛んできた。それを何とか避ける。
地面に着地してからローキックを繰り出したであろう男を睨み付けてやった。

「ロッグ!来る度来る度、蹴り繰り出してくるのいい加減やめろ!」

オレの訴えにも、眠そうに細められた目は揺らがない。堂々とオレの視線を受けて、それから―――

「髪、傷んでる、切らせろ」

何でもない顔で言ってのけた。既に片手にはハサミ。腰につけているバッグからは櫛をとろうとしている。
こうなってしまえばオレがなんと言おうと無理矢理髪を切りに掛かるだろう。

「はぁ……」

大きなため息をついて、訪問美容師を店の奥へ案内した。


「雪乃の髪綺麗な色。傷ませるの、勿体無い」
「耳にタコができるくらい聞いたよ、その台詞……」

大人しく椅子に座って、オレはまた大きなため息をついた。チョキチョキと規則正しい音が後ろから聞こえてくる。
訪問美容師のロッグは、横暴な奴だった。出会ったときも、髪が傷んでいるだとかなんとかで怒られた記憶がある。口下手なのか、話すも片言っぽいし、何よりマイペース。

――……それでも、腕は確かなんだよな

頭の片隅でそう思う。
仕事は早いし、ちょうどいい具合に髪を切ってくれる。

「…できた」

ぼそりと聞こえた声に終わったかと息をついた。これでまた暫くは怒られずにすむだろう。
ロッグがテキパキと後片付けをしながら、声を投げ掛けてきた。

「ちゃんと、リンス、してるのか」
「…してないな」
「しろ。綺麗な色なのに、勿体無いだろ。もう少し、髪、大切にしろ」

終わったらいつもの会話だ。
大切にしろ、と言われても。オレはもう三十路なんだし、と思う。まぁそんなこと口に出したら今度は何が飛んでくるか分からないから言わないが。

「はいはい、わかったよ」

適当に返事を返すと、あいつは満足そうに頷いた。


(髪のケアは心のケア!)

(って、誰かがいってた)
(……聞いたことねぇよ)


やみまる様宅 ユキノオー♂/雪乃さん

お借りしました!


髪のケアは心のケア!




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