promise
11年前、あたしはある男に出会った。
その男はいつもランタンを持っていて、いつも悲しそうに笑っていた。大きな木の幹に座っていた姿は今でも鮮明に思い出せる。
その男の名前は、『ジャック』といった――
あたしが住んでいるこの町のはずれの雑木林を抜けたところに、大きな木がぽつんと立っている。誰からも忘れられたその木は、春になると力強く青々と輝き、冬になると葉はすべて落ちてしまって弱々しくなる。夏になったら太陽の光を遮ってくれる日陰になって、秋になったらあいつがランタンを持って幹に座っていた。
「また来てくれたんだねwwwww」
今年もまた、あいつは座っていた。去年のようにランタンをもって、同じ格好で同じ体勢で。長い紫の髪のなか、ギラリと輝いている赤い片目が嬉しそうに細められた。
「約束、したから」
ぼそりと呟くと、あいつはありがとうといって微笑む。
あいつの名前は『ジャック』といった。それ以外のことは何もしらない。だって、ジャックは自分のことをなにも教えてくれはしないから。あたしが知っていることは、名前と、ジャックがハロウィンの夜にだけ姿を現すことと、あたしにしか見えないということ。幽霊の類か何かかな、とは思ったけど、あたしにはまったくと言って良いほど霊感というものがない。ただ、人間ではないということは霊感のないあたしでも、10年間会いに行き続けてわかった。
「そろそろ朝だね」
ジャックがぼそりといった。
ジャックの方を見上げると、ランタンを持ちながらよっこいしょと立ち上がっている姿目に入った。
そんなあいつに、あたしは先ほどから思っていたことを口にした。
「来年も、ここに来るの?」
「俺はいつもここにいるよ」
ならなんで普段は見えないのよ。あたしは何度も何度もここに来ているのに、ジャックが、姿を現してくれるのはハロウィンの夜だけ。
「どうしてあんたはハロウィンの夜にしか現れないのよ」
「事情があるんだ、ごめんね。……あ、もしかして俺が居なくて寂しいの?wwwww」
「そ、そんな訳ないでしょ!ばっかじゃないの!」
いつものようにあたしをからかってきたジャックに、怒鳴ってからそっぽを向いた。それから後ろでクスクスと笑う声が聞こえてきた。この男は本当に……。
「来年も、来てくれる?」
「知らない!」
そっぽを向いたまま怒鳴ってやると、ジャックがまたクスクス笑った。それにムカついて振り返るけど、そこにはもう誰もいなくて。周りが白んできている。あぁ、朝がきたのか。朝だから、ジャックは消えたんだ。
″来年も、来てくれる?″
「行くに決まってんじゃん……」
ぼそりと、呟いてあたしは白んできた雑木林の中を走って家路についた。
(Promise)
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