声がして、林の方から青い何かが飛んできた。それは葵紀さんの髪に触れた途端燃え上がる。葵紀さんが驚いてジャックを解放すると、髪を大きく振って火を消した。
すぐ隣から、カランカランと音がした。目を向けると、そこには銀髪の男の人がいて、あたしに笑いかけてきた。
「お嬢さん大丈夫?」
頷いた拍子に見えたものに息をのんだ。男の人の腕は骨で、それに右足も骨だった。彼も人間じゃないということは一瞬でわかった。男の人の隣から青白い何かが滑るようにしてジャックの元へと向かった。
「あなた、消える気ですか」
咎めるような口調だった。青白い何かは、人の形をとっている。あ、幽霊だ。そう思ったときに幽霊の男の子と目があった。冷たい、だけどどこか優しげな青い透明な瞳。
「今の状態で力を使ってしまえばあなたは確実に消えます。それが分からなくなるほど頭まで遣られてしまったんですか?」
「消えるって……」
まさか、さっきの力のことかなのか。あれを一発でも使ったら、ジャックは消える。
――馬鹿じゃないの
勝手にあきらめるなって言ったとこなのに。あたしなんかのために、消えてほしくないのに。出そうになる涙を必死に耐えた。それを見てか骨の男の人があたしの頭を優しくなでてくれた。
「お嬢さんはジャックと逃げるんだ」
そういって立ち上がると、骨の男の人は葵紀さんと対峙した。男の人の隣にふわりと幽霊が並ぶ。
「彼女は僕たちが遊んであげますから、早く行きなさい」
幽霊の言葉に、あたしは小さく頷いてジャックの腕をとってまた走り始めた。
「ジャック、足掻いてみなさい。あがいてあがいて、生き残ってみなさい」
幽霊の声が背中越しに聞こえた。