ジャック | ナノ







「俺はリル。で、こいつがロゼットだ」
「はぁ……」


男の人――リルさんの紹介にあたしはとりあえず頷いた。部屋には明かりがついていて、二人の容姿がよくわかる。
リルさんは綺麗な顔をしていた。声を聞かなければ本当に女の人に間違えてしまいそうなくらい。赤い瞳に緑の髪。顔の左半分を長い前髪で隠している。
ロゼットさんの方は背中から黒い翼をはやしていた。尻尾もあって時折左右に揺れている。同じく緑の髪に青い瞳、目尻についた泣き黒子。
というか、なぜあたしは床に正座してるのだろう。リルさんはあたしのベッドの上で胡座をかいてるし、ロゼットさんは勝手に椅子に座っているし。ここ、あたしの部屋よね……?


「話ってなんですか」


不機嫌丸出しで聞くと、リルさんが苦笑した。それでもすぐに真顔に戻る。


「ジャックについてだ」


あたしは弾かれたようにリルさんを見た。ジャックのこと? そう聞き返すとリルさんが頷いた。


「俺はウィッチ――いわゆる魔女の家系でな。母親の代からあいつを診てきた」
「診てきたって……、あいつどこか悪いんですか?」


あたしが少し身を乗り出して聞くと、″やっぱり言ってなかったか″といってリルさんが眉間にしわを寄せた。そんなリルさんの代わりにロゼットさんが口を挟む。


「ジャックはね、体というよりも魂がヤバい状態なんだよ」
「魂?」
「彼の魂は、もう限界なんだ」


どういう意味かまったく理解できなかった。魂が限界とはどういうことなんだ。


「分かりやすく言えば、魂がこの世から――世界から消えるってことだ。もちろん、あの世にもない。完全な消滅」
「完全な、消滅……」
「俺や俺の母は、それを遅らせるために薬を作り続けた。かれこれ500年にはなる。だが、もう限界なんだ」


500年だなんてすごい数字より、あたしの頭にはジャックが消滅してしまうと言うことしかなかった。それは、とあたしは口を開く。


「どうにかできないんですか?」
「出来たなら、リルがとっくにやってるよ」


ロゼットさんの少し鋭い、でも優しい口調の声が耳に入ってきた。
リルさんをみたら、すごく申し訳無さそうな表情をしている。


「それを、なんであたしに?」
「あんたには、知ってほしかったからだ。それから、もう一つのことも」
「もう一つ?」


あぁ、そう言ってリルさんは頷いた。その真剣な眼差しにあたしは居座りを直す。それから、固唾をのんでリルさんの言葉を待った。

「ジャックは悪魔にねらわれてる。悪魔にジャックを捕まえさせたらだめだ」


リルさんに続いて、ロゼットさんが口を開いた。


「悪魔はジャックの魂を食べる気なんだよ」
「なん…、食べる……? なんでジャックの魂を………?」


あたしの問いに、リルさんが小さく息をついた。それはまるで決心したかのような、そんなため息にも見えた。


「どこから話そうか。そうだな、ことの発端は約600年ほど前のことだ――……」




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