ジャック | ナノ






夜中0時を回ったことに気がついたのはつい先ほどのことだった。虎銀は小さく息をついてから緩んだ気を引き締めた。高い相良の屋敷の屋根から、眼下を見下ろす。問題なし。少し先の林を見る。そこも問題なし。
これは虎銀の日課だった。基本的に虎銀や他の者たちは夜に活発的に活動をはじめる。それは相良やジャックも、さらには悪魔たちもおなじだ。ただ雷は最近になって学校という所に行き始めたために、昼間に起きて夜に寝るという方向性になってきていた。


「相良は何を考えているんだ……」


今日、人間の子供がこの屋敷に泊まっている。雷の友達で、さらにはジャックのお気に入りだというその少女はどうやら、林の中で黒い者たちに襲われたらしい。きっとそれを時雨あたりが助けたのだろう。その彼女を鉄冶が連れてきたのだ。林の外に追い出したらいいものの、なぜわざわざ危険が多いこの林の中に。


「東、北と問題はなかった」


ふと背後から声がして振り返るが、そこには誰もいない。それでも虎銀は″そうか″とだけ返した。声が続ける。


「悪魔たちも今夜はやけに静かだ。嵐の前触れって奴かもしれねぇな」
「今年のハロウィンが目途ってわけか」
「で?ジャックの野郎はどこ行きやがった。追いかけ回されてる張本人があんなにも放浪主義だったんじゃ、守ってるこっちがやってらんねぇよ」


ため息をつく声に、虎銀は苦笑を漏らした。もっともだ、という風に頷いてやる。


「だが、そう言わずに頼むぞ夜天」
「わーってるよ。俺だって相良とジャックに救われた身だ。恩は返す」


夜天と呼ばれた声は、″じゃあな″と言ってやがて聞こえなくなった。
虎銀はまた小さくため息をこぼす。

今、虎銀たちの世界はふたつに分かれていた。
一つはジャックを信じ相良という吸血鬼を信じ、またはその二人に救われた虎銀たちのような連中。
そしてもう一つが、ジャックを狙う悪魔たちとその仲間。ジャック自身というよりも、彼の魂を食べようと追いかけているらしい。そして、それと共にジャックは年々力を失って行っていた。やがて力はなくなり、ジャックは消えるのだという。


――あいつが消えるのが先か。悪魔があいつの魂を喰うのが先か


どちらにせよ、ジャックは死ぬ。やるせない気持ちではあるが、虎銀に出来ることはこの屋敷と相良、そしてジャックを守ることだった。
カランっ、と背後で音が鳴った。振り返ると月明かりに照らされて、ランタンが一つ宙に浮いていた。不思議なその光景も、もうすでに見慣れたものだ。
ランタンに向かって声をかけた。


「″放浪主義だ″って、夜天が怒ってたぞ」


それにランタンが返事をかえす事はなかった。ただ、小さく揺れただけだ。
それを見て虎銀は眉間にしわを寄せた。


「どこに行ってたんだ。悪魔の動きが活発になってきている。一人で出歩くな。危険だ」


また、ランタンが小さく揺れた。


「それでも、護ってくれるんでしょ虎銀は」

ぼそりと、本当に小さな声が返ってきた。これが、今のジャックの最大音量なのだ。当たり前だと返すと、ランタンが左右に小さく揺れた。まるで、笑っているみたいだ。


「あの子も護ってあげてね」


そう呟くように言ってから、ランタンはすぅっと闇に溶けていった。見えなくなった明かりに、虎銀は本日何度目かのため息をこぼした。


「どいつもこいつも――」


――本当、勝手で困る。




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