目が覚めると、そこは見慣れない場所だった。暗い部屋に窓から月明かりがわずかに入ってくる。少し古びた部屋は、お世辞にもきれいとは言い難かった。
ここはどこだろう、そう思ったとき、あたしは自分がベッドの中にいることに気がついた。そこで、さっきのことが脳裏によみがえった。赤い、真っ赤な口。ずらりと並んだ牙があたしの首に――。
ぶるり。一度大きく体が震えた。あたしは、生きている。あれはきっと幻だったんだ。そうだ、そうに違いない。
ところで、ここはどこなのだろうか。あたしはベッドから抜け出して、うっすらと見える扉に向かった。取っ手に触れた時、扉が向こう側から開け放たれた。途端に入った明かりにあたしは目を覆う。
「6、起きたのか!」
聞き覚えのある声に目を覆っていた手をどけた。まだ少し眩しいけど、その顔ははっきりと見えた。明るい金髪に、金色の瞳。
「雷……?」
恐る恐る声に出してみると、雷は嬉しそうにそれからどこか安心したように笑った。部屋に入ってきて、あたしの頬をぺちぺちと叩きはじめた。
「大丈夫か?どこか痛いとことかないか?」
「だ、大丈夫よ。それよりここは……?」
やんわりと雷の手を振り払ってから、部屋の外を覗き込みながら尋ねた。すると雷があぁ、と小さく呟いた。
「ここは俺の家。俺の家、というか実際は相良の家で俺はただの居候なんだけどね」
「相良?」
聞き覚えのない名前を口に出すと、うんと雷が頷いた。
どうやら相良という人は、行く宛の無かった雷と雷のお兄さん達を家に迎えてくれた、とても良い人らしい。あたしは林で倒れていて誰かが此処まで運んでくれて、相良さんがあたしのことも家に迎えてくれてさらには応急処置とかもしてくれたという。
とんだお人好し。こんなに良い人今の時代あまりいないだろう。
「雷、彼女は起きたのか?」
ぬっと扉の向こうから男の人が顔を出してきた。深い青の髪に、ファーのついた上着に頬に大きな傷跡。それに、優しそうな目をした男の人だ。その人に続いて今度は銀色の髪をした長身の男の人が現れた。こちらは鋭い赤い目をしている。
優しそうな目の男の人があたしのことを見て、顔を綻ばせた。
「おお、目が覚めたか。気分はどうだ?」
「え、えぇ。おかげさまで……」
あたしが返事をすると、男の人はそうかそうかと頷いた。もしかして、この人が相良さんなのかな。この人たちは?という視線を雷に向けると、気がついてくれたようで彼が二人を紹介してくれた。
「6、この人がさっき言ってた相良。で、後ろにいるのが俺の兄の虎銀」
やっぱり、この人が相良さんなんだ。それに後ろの人は雷のお兄さんだったのか。
あたしも自己紹介とかした方がいいのかなって思ったときに、相良さんが先に口を開いた。
「夜の林は危ない。今日は金曜日だし泊まっていくと良い」
「相良っ、人間を――」
「彼女はジャックのお気に入りだ。あの者たちに殺されでもしたら、我が怒られる」
相良さんの申し出にあたしが何かを言う前に虎銀さんがこえをあげた。″人間を″って言ってるから、やっぱりこの人たちも雷と一緒で、人間じゃないんだ。それに、またジャック。
「6の家にはもう連絡しといたよ」
「え!?」
雷の言葉にあたしは情けない声を出した。どうやら家に″今日は友達の家に泊まる″と既に連絡してしまったようだ。連絡してくれたのはどうやら相良さんで、放任主義なうちの母親はすんなりそれを受け入れたらしい。
「相良――……」
呆れたような声を出した虎銀さんに、相良さんが微笑みかけた。
「まぁそういうな、虎」