突然隣の草むらが音を立てた。びくりも肩を揺らしてそちらを見てみるけど、何もない。動物かな、そう思った矢先だった。
「人間ダ………」
「……!?」
すぐ側から声がした。ひどくしわがれた、聞き取りにくい声。あたりを見回すも誰もいない。でも、確かにそこにはあたしを見る無数の視線があった。
「人間ダ…人間ダ…」
「人間ノ子供ダ…」
気がつけば囲まれていた。あたしはどうすることも出来なくて、その場に座り込む。立ち上がろうとなんて出来ない。足が、笑ってる。怖い。
「オイシソウナ人間ノ子供ダ…」
「ひっ!」
すぐ後ろから聞こえたひときわ大きな声に、あたしは情けない声を出してしまった。後ろを振り向くも誰もいない。
クスクスクス、周りの黒いものたちが一斉に笑い始めた。
「怖がってる、恐がってるよ」
「可哀想にねぇ」
「早く早く」
「そうだ、早く食べてしまおう」
黒いものたちが、だんだんと近づいてくる。恐怖でいっぱいいっぱいのあたしは、ただ自分の肩を抱くことしかできなかった。
「俺ハ腕ヲ」
「なら私には頭を頂戴」
「目玉はおいらにおくれよ」
「腸は僕が戴こう」
怖い。怖いよ。
必死に目を瞑って恐怖を耐えた。誰かが助けてくれることを祈って。
ふと、周りが静かになった。目を開けてみても、周りには何もいない。幻聴だったのかな、そう思って後ろを振り返った。
「いただきます」
聞こえた声に反射的に振り返ると、そこにあったのは三日月型の、鋭利な牙がならんだ大きな真っ赤な口だった。
「いやぁああああ!!」
あたしの絶叫が、雑木林に木霊した。