ジャック | ナノ






放課後。真っ赤に染まった教室で一人、あたしは隼と忍を待っていた。確か忍は陸上部で、隼はサッカー部に入部したんだっけ。あたしはどこのクラブにも入らなかったけど。
外から野球部の掛け声が聞こえてくる。夕日に照らされながら走っているサッカー部と野球部を窓際の席から眺めていたときだ。


「まだ帰らないの?」
「っ!?」


すぐ側から声がした。驚いて立ち上がると、夕日に当てられてキラキラ輝く金髪が目に入った。昼間見た顔だ。確か名前は、雷。
雷は驚いたように目を丸くさせている。そんな彼にあたしはため息をついた。


「驚かせないでよ……」
「ごめんごめん」


まったくもって謝る気のない謝罪だ。あたしはまたため息をついて席に戻った。それにしても、気配というか、そういうものが全くなかったな……。
雷はあたしの前の席に座って同じように外の景色を眺めていた。


「あんたは、帰らないの?」
「うん、一緒に帰ろうって言われたし」


誰に、とは聞かない。どうせ忍だろうし。そう、と適当に相槌を打って視線を外に送る。沈黙が教室に広がった。なにかはなした方がいいのかな、話題を必死に探すあたしは雷が立ち上がったことに全く気がつかなかった。ばんっ、と机が叩かれた。驚いて顔をあげるとそこには至近距離で雷の顔。ちょ、これどうゆう状況!?


「あの…‥…!」
「うーん。普通の人間の子だよなぁ」


声を上げかけたあたしを無視するかのように、雷が首を傾げた。
普通の人間の子ってどうゆう意味よ!
言い返してやりたかったけど、それはかなわなかった。雷の目が、先ほどの金色とは程遠い赤に変わっていたから。真っ赤に燃えるような赤い瞳は、猫みたいに鋭くなっていて。なんだか怖くなって視線を下に逸らして息をのんだ。夕日で伸びた雷の影がまるで巨大な狼のような形をしていたから。


ーーなにこれ、なんなのよこれ!
「ジャックはこんな人間の子のどこが気に入ったんだか」


聞き覚えのある名前にはっとして顔を上げた。


「ジャック?あんた、ジャックを知ってるの?」
「当たり前でしょ。ジャックは俺たちの仲間だし」
「仲間……?」


そ、と頷いて雷があたしから離れた。それから近くにあった机に座る。


「俺たちはあんたたち人間とは違う。人間よりも遥かに長生きで、強くて、凶暴な連中だよ」


そう言って笑った雷に寒気が走った。背中に嫌な汗が流れる。怖い。恐怖に足がふるえた。夕日に照らされた雷の目が、しっかりとあたしを捉えた。


「怖い?」


耳元で聞こえた声。勢いよく立ち上がって後ろを振り返るとそこには赤色の瞳と狼の影。さっき雷がいたところは何もないし、誰もいない。

逃げたい。ここから、今すぐに逃げ出したい。でも、それはかなわない。恐怖で足が笑ってしまっている。
雷が楽しそうに笑っている。怖い。


「もっと、もっと怖がってよ。怖がれば怖がるほど、おいしくなるって聞いたしね」


クスクス、クスクスと雷が笑う。
おいしいって、つまり食べるってこと?
怖い。これほどの恐怖、感じたことがない。足が震える。怖い。
雷があたしの足をちら見した気がした。でもそれも気にしていられないくらい、あたしは怖かったんだ。と、雷がため息をついた。


「……冗談」
「……………え?」
「だから冗談だって。そんなに怖がらないでよ」


冗談?
オウム返しすると、雷はそうだよと肩をすくめた。


「俺は″スコル″って狼で、主食は太陽光。人間じゃないんだよ」


笑った雷に、あたしはストンと力が抜けるのがわかった。その場に座り込んだあたしに、雷が慌てたようにごめんごめんと謝ってくる。

それからすぐに忍と隼がやってきて、みんなで帰ることになった。雷が忍に怒られていた。


「ジャックのことが知りたいなら、また家にきなよ」


雷が、別れ際にあたしに言ってきた。
ジャックのことがわかるのなら、とあたしは頷いた。





(wolf)






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