小説 | ナノ






その昔、ある所に仲の良い少女と少年がおりました。
少女は正義感が強い性格で、少年は静かな性格でした。
二人はいつも一緒でした。遊びに行くのも、母親の手伝いをするのも、勉強をするのも、全部全部一緒でした。

いつしか、少女は少年に惹かれていきました。少年もまた、少女に惹かれていきました。二人が惹かれ合うのはまさに運命だったのかもしれません。
お互い惹かれ合っていると知った二人は交際をはじめました。晴れて、二人は恋人となったのです。
少女と少年の恋は、とても初々しいものでした。すぐに赤くなって、でもその後二人で笑い合って、また赤くなります。
お互い気を使う性格でもあったため、特に大きな問題は起こらず、二人の仲はもっともっと深いものになって行きました。


月日が流れ、少女は美しい女性に、少年は逞しい男性へと成長しました。
二人は別々の学校で、会える日は昔に比べてかなり減ってしまいました。それでも、二人の愛は変わりませんでした。
その頃でしょうか。彼女に沢山の男達が声をかけに来ました。皆、彼女の美しさと強かさに惹かれたのです。彼女は見向きもしませんでした。だって、彼がいるのですから!
聞くところによると、彼もまた、沢山の女に言い寄られているのだと言います。だけども彼も見向きもしませんでした。だって彼には彼女がいるのですから!

月日がまた流れ、二人は立派な大人になりました。二人に言い寄ってくる男や女は相変わらずいますが、それでも二人の愛は変わりませんでした。

ある日、彼が言いました。

一緒に暮らそう、と。

彼女はもちろん、二つ返事で了承しました。
彼と一緒に家を探しました。
彼と一緒に家具を選びました。
彼と一緒に小物を選びました。
彼と一緒に未来について考えました。
彼と一緒に指輪を選びました。

彼女はそれはもう、幸せで幸せで、天にも登るような気分でした。毎日が幸せでした。新しい家で彼を出迎えるのです。そうして一緒にご飯を食べるのです。おはようとおやすみを一番最初に告げられるのです。
これほど幸せなことなんて、他にあるでしょうか!
明日は彼と新しい家に引越すのです。そして、今よりもっと幸せになるのです。そう信じていました。










ですが、それは簡単に碎かれてしまいました。

彼が死んだのです。

殺されたのだと言います。
彼に言い寄っていた女の仕業です。女は、自分以外の女と暮らすことに嫉妬して、彼を殺したのだといいます。そして、彼の指輪を盗み姿を消したそうです。

彼女は泣きました。泣いて泣いて泣いて、涙が枯れても、声がかれても、心が枯れ果てても泣き続けました。
やがてーー、彼女は世界に嫉妬しました。
自分の幸せを奪った世界の中に、同じように幸せになった者達がいる事が許せなかったのです。
彼女の心は完全に壊れてしまいました。
外に出れば、笑っている人間たち。それを見るだけで心の中は怒りや悲しみや嫉妬の炎で埋め尽くされて、どうにかなってしまいそうでした。

やがて、彼女は自ら命を断ちました。







目が覚めると、そこは天国でも地獄でもありませんでした。真っ暗な空間にぽつんと、自分だけが座り込んでいたのです。
嗚呼、私は死んでも幸せになれないのか。嫉妬の炎が心を包み込みます。
なんで?どうして?私はただ幸せを願っただけなのに。私はただ、あの人と共に生きていたかっただけなのに。どうして私とあの人が引き裂かれて他の人間たちはのうのうと暮らしているの?なんで?どうして?

「やぁ、起きたんだね」

真っ暗闇に一つの明かりがさした。
顔を向けるとそこに立っていたのは真っ黒な翼を生やした男が二人。誰、枯れ果てた声で聞く。

「君はこれから僕達の仲間だ。とても高貴な存在、それが僕達さ」
「あはは、まぁそういうことだね」

仲間。仲間ってなんだ。

ばさり

聞こえた音に背中を見た。真っ黒な翼。彼らと同じ真っ黒なそれ。なんだかこれって、

「悪魔…」
「そう、正解!私達は大罪の悪魔!歓迎するよ、レディーーいや、第三の席【嫉妬】」

嫉妬、悪魔、嫉妬の悪魔。
私にぴったり。嫉妬に焦げたこの心は、もう何を見てもそう思ってしまう。差し出された手を握った。うやうやしく手の甲にキスを落としてくる。

「君の名前を聞こうかな」
「私はーー」

ゆっくりと立ち上がった。
消えないこの心を持って、生きよう。世界中の人間に嫉妬して、そして懲らしめてやるんだ。
悪魔。私は悪魔。

「ーー嫉妬の悪魔、エレオノーレ」









(第三の席)


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