小説 | ナノ






この世に偶然などない。全ては必然の元生まれてくるのだ。

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この世に偶然などない。すべてが必然だ。
私が人間としての生を終え、“暴食”として生まれ返ったのも、同じく兄が“強欲”として生まれ返ったのも、全てはあの人が定めた必然だった。

暴食である私の腹は、常に空いていた。何を食べても腹は膨れなかった。毎日毎日腹をすかせる日々。どれだけ食べても、食べ続けても一向に満足できなかった。
だからモノは試しだと、とある林を襲った。林にはいわゆる伝説上の生き物たちが暮らしていて、それを私は片っ端から食べていった。巨大な狼やランタンの男が必死で挑んできたけど、到底私には敵うはずがなかった。だって、私は大罪の悪魔で奴らは少し名のしれただけの生き物なのだから。
そこで、私はあることに気がついた。
生物を直接食べても腹が膨れなくって、半ば自暴自棄になりながらも使った魔法。それが、“時間の魔法”だった。するとどうだろう。相手の時間を吸い取って自分のものとした瞬間、初めて私は満腹感を覚えたのだ。
そう。私は単なる悪魔ではなかった。相手の時間を吸い取って、それを食らうーー時間を糧とする“暴食”なのだ。

生前も確か、時間に厳しいと言われていた。コンマでも遅れが生じれば気にする性格だったと思う。それが影響しているのかはわからない。とにかく私は、自分なりの食事の仕方を覚えたのだ。

それからは事あるごとに時間を操作し、食事を行った。
どうやら私は、相手の時間を吸い取る他に、相手の時間に干渉することによって満腹感を得られるらしい。あの人が教えてくれた。
毎日がお腹いっぱいだった。たとえ私が食事をすることによって、誰かの死期が早まったり、運命が変わろうと関係なかった。だって、私は悪魔だから。悪魔らしいことをしているまでだ。そう、誇らしくもあった。
でもそれは長くは続かない。
あの人が死んだのだ。
死ぬ直前、あの人は言った。

「私達…大罪の悪魔はね、7人全員が揃うことで今の力を発揮できる。つまりね…私が死ねば…君たちの力は半減するんだよ…」

その言葉のとおり、私の力は半減した。相手の時間を吸い取る事ができなくなったのだ。それだけじゃない。特定の相手の時間を操作することすらできなくなった。つまり、食事をすることができなくなったのだ。
次の怠惰が現れるまで、私はこの空腹に耐えなければならない。そんなこと、できるはずがない。毎日が空腹のあの時に戻るだなんて、考えられない!

ーーだから、私は傲慢の提案に賛成した。果たして、彼の言うことが本当のことなのかはわからない。だけど、何もせずにここで空腹に耐えるなんて、それこそできるわけがなかった。

そして見つけた、不死鳥の少女。
死なない身体、死ねない身体は利用するにこしたことはなかった。彼女を利用して、あの人が残していった物を集めよう。
あの人が残していった物ーー

命を育むダイアモンド。
愛を誓った銀の指輪。
狼を守るネックレス。
悲しき人魚の涙。
赤く燃えるランタン。
金に輝く不死の羽。

そして、七人の悪魔の血。

一回目は失敗に終わった。人形に埋もれたダイアモンドを回収できず粉々に壊れてしまったのだ。

世界自体の時間を戻して、また初めからやり直した。

二回目も失敗に終わった。私達の動きに気がついたランタンの男が、自らその灯火を絶ち、ランタンを壊したのだ。

世界自体の時間を戻して、また初めからやり直した。

三回目は邪魔をされた。嫉妬が銀の指輪を何処かに隠し、壊したのだ。

世界自体の時間を戻して、また初めからやり直した。

四回目も五回目も…何度繰り返しても邪魔をされた。私達に対抗して、三人の悪魔達が立ち代わり入れ替わり、邪魔をしてきたのだ。
そして、何度も何度も繰り返すうちに私はふと思うことがあった。


これもまた、必然なのかと。


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林を照らしたジャック・オ・ランタンの輝きが、消えた。
あの人が残していったランタンを回収しよう。そう兄が動いた時だった。

「…悲しいな」

ぼそりと呟くような声が聞こえた。と、同時に冷たくなったランタンに白い手が伸びる。無機質なそれを大事そうに抱え込んだのは、“嫉妬”のエレオノーレだった。

「てめぇ……また邪魔する気かよ」

兄の憤った声が静かに響いた。エレオノーレはすっと目を細め、私達を見やる。

「あの人の意思を貫きたいんだ」

か細い、だけど決意に混じった声だった。

「また…またそれかよ!!!あの人の意思なんて関係ねぇ。オレには、オレ達にはあの人しかいないだろう!それを他の奴があの人の場所に立つだなんてーー考えるだけで虫唾が走る!!」

兄が怒声を上げる。声は静かな林の中へと消えていった。だけど、そばで聞いていた私には、よく聞こえた。とても悲しい、兄の声が。
私達にはあの人しかいなかった。私達を掬い上げた、作ってくれたあの人は、いつでも私達の一番の存在だったのだ。今更、その“怠惰”の位置に誰か違うものが来たとして、私達はそれを認める事ができない。できない、けれどーー

「…何度でも、あなた方は邪魔をするのですか」
「………何度でも邪魔をしよう」
「“怠惰”の席に、見ず知らずの者が立ってもいいと?」
「正直に言ってしまえば、認められないだろう。だが、それも時間が解決してくれる。私達は、死ぬことがないのだから。ゆっくり、それを認めれば良い」
「……」

黙りこくった私達に、彼女は追い打ちをかける。

「…それに、あの人が生き返ったとして、それはあの人ではない」
「どうゆう意味だよ」

耳を疑った。
彼女が言うに、あの人の魂は完全に消えてしまったわけだから、復活の儀式をしたとして仮にそれが成功したとしても、それはあの人にそっくりな、違う誰かだというのだ。

「それを知ってもなお、傲慢はあの人を生き返らせようとした。奴は、特別あの人との時間が長かったから」

一番初めに生まれた傲慢。親として、兄弟として、あの人を慕っていた。

「彼も、認められないだろう。だけどいずれーー時間が解決してくれると。そう信じたい」

かつての私もそうだったように。

嫉妬がこの場には似合わない微笑みをした。優しく、すべてを包み込むかのような暖かな微笑み。
嗚呼、そうか。そうなのか。

「…これもまた、必然なのかもしれない」

私のつぶやきに兄が反応したのがわかった。何を馬鹿な事をと言うも、兄も心の何処かでは私と同じことを思っているのかもしれない。その証拠に、それ以上何も言うことはなかった。

「………………次の怠惰の目星は付いているのですか」
「金の翼の少女」

嗚呼。本当にこれはどんな偶然なのだろうか。否、この世界に偶然などない。
全ては必然なのだ。



(時を食べる魔女の話)



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