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夢を見た。それは遠い過去の記憶。まだ、あの人が生きていた時の懐かしい記憶。

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目が覚めた時、彼は悪魔になっていた。それもただの悪魔ではない。大罪の悪魔と呼ばれる、7人の選ばれた悪魔だ。彼は選ばれたのだった。自分を除く6人の悪魔が彼を見つめる。

「やぁ、おはよう」

そう言って手を差し伸べたのが、あの人だった。




あの人は怠惰の悪魔と呼ばれていた。その名の通り、何に対してもやる気を見せず、他人任せ。自分は常にゴロゴロとベッドの上で転がるだけ。だが、それでも彼は皆から慕われていた。皆、彼に救われたからだろうか。
そんな彼の世話をするのが、憤怒の悪魔となったギルバートの仕事だった。できることは何でもやった。その度に色欲や嫉妬に甘やかしすぎだと笑われた。だが構わなかった。ギルバートは自分を悪魔としてでも生き返らせ、居場所を与えてくれた彼に感謝しているのだ。そして、その恩を返したいと、そう思っているのだ。それを伝える度、怠惰は苦笑をこぼすのだった。

「新しい人生なんだから、好きに生きなさい。私みたいに」

自分は好きに生きているのに。
ギルバートは小さく首を縦に振るだけだった。それを笑って、彼は優しく頭を撫でてくれるのだ。









悪魔といえど、不死ではない。彼は人間界に遊びに行った際、騎士に酷い攻撃を受けたらしい。そして、日に日に力を弱めていた。床に臥せった彼をギルバートは健気に世話をした。それでも、彼の命は時期に消えるだろう。ギルバートは彼を助けられない自分を恨んだ。人間界に遊びに行った時、何故ついていかなかったのか。自分を呪った。
彼がすっかり痩せ細った腕を上げた。それを反射的に掴む。
皆を集めてくれ、と彼はか細い声で言った。


「私達…大罪の悪魔はね、7人全員が揃うことで今の力を発揮できる。つまりね…私が死ねば…君たちの力は半減するんだよ…」

彼の言葉に驚いた。彼らは7人で一つの悪魔。それこそが、七つの大罪、大罪の悪魔なのだ。
彼は続けた。目を細めて、残される6人の悪魔を優しく見る。

「私が死んだら…次の怠惰を探してほしい。何十年、何百…もしかしたら何千年も掛かるかもしれない…。だけどどうか、どうか私の代わりになる怠惰を探してくれ」

頼んだよ。

それが、彼の最後の言葉となった。息を引き取った彼は黒い粒子となってこの世から消えた。皆、泣きこそはしなかったが胸にポッカリと穴が開いた感覚を覚えた。
嗚呼、これが寂しいという感情なのかとギルバートは一人思っていた。





「彼を生き返らせよう」

そう言い放ったのは傲慢だった。

「7人揃わなきゃ力を出せない!いつ現れるか判らない彼の代わりなんて待てない!」

傲慢は誰よりも、この力に酔っていた。力があれば、彼の傲慢さをより強く発揮できるからだろうか、ギルバートは一人思う。それに賛同したのは、強欲と暴食の兄妹の悪魔だった。

「欲しいもんがすぐ手に入んねぇとか考えらんねー」
「力が足りないことで時間ロスが生じる可能性もありますし」

三人に反対したのが、嫉妬と色欲だった。

「彼の意志を尊重させるべきでは無いのか」
「それに、生き返らせる方法なんてねぇだろ」

肩を竦めながら言った色欲を傲慢が鼻で笑った。昔からこの二人はどうにも相容れないようだ。鼻で笑った傲慢を色欲が睨みつける。視線を感じたのか、傲慢が自慢げに語った。

「怠惰は死ぬ前に自らの魔力で様々な物質を作り出していた。それを集め、儀式を行えばーー彼は復活する」

そこからは流れる様に話が進んでいった。
傲慢、強欲、暴食は怠惰を復活させるためにこの地を離れることに。
色欲、嫉妬は継承者を待つことにした。
憤怒であるギルバートは、その時、どちらが正しいか決めることが出来なかった。彼には会いたいが、意志も尊重したい。ギルバートにはどちらが正しいのか、わからなかった。

だがそれはすぐに変わる。

傲慢達が見つけた不死鳥の少女。
彼女を使い、残忍な手を使い、時を操り、復活に必要なものを集めていく彼ら。
彼らは悪魔だ。誰よりも、悪魔らしい事をやってのけているだけだ。だが、みていられなかった。悪魔らしくないと、自分をあざ笑う。
そして、少女を救うべく色欲達とともに傲慢達の妨害に入ったのだった。


そこで、夢は途絶える。





そして今、その不死鳥の少女が目の前にいた。頭を抱えて、繋がった記憶に怯えて、泣いている。
少女を救うためと、自分が練った策はこの少女にはあまりにも残酷だった。だが、やらなければこの負の連鎖は終わらない。ギルバートはすっと、膝を落とすのだった。


少女に手を差し伸べる。
憤怒は呪った。少女をこうした彼らを世界を。そして、それを救えない自分自身を。

(全てを呪った悪魔の話)

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