小説 | ナノ





※精神崩壊の描写があります。






私達はどこか欠けている。

伽北くんは左腕が。
高継くんは左眼が。
私は、心臓が。

私達は完璧を求めていた。
全てが揃った、完璧な体。冷たくて硬い体じゃなくて、暖かくて柔らかい体。

そう、私達は、人形だった。



△▼△▼△▼△▼



「ひぃっ……助けてくれ、助けーーあ“あ“
あ“!!!!」

森に迷い込んだ人間の男。この森は私達の住処で、狩場。
高継くんが叫んでいる男を笑いながら刀で突き刺していた。みっとも無く命乞いの言葉を吐き捨てる男の舌を伽北くんが表情ひとつ変えずに切り捨てる。
私が近寄った時には、男の顔は血と涎と涙でぐちゃぐちゃになっていた。
あはは、汚い顔。

「安心して下さいね。あなたの体はちゃーんと、有効活用してあげますから」

真っ赤な目で、男を見下ろす。そうすれば、言葉なんて出ないのに男は口をパクパク開閉する。まるで餌を求める金魚みたい。

「そんなにエサがほしいんですか?ならエサをくれって媚びてみたらどうです?」
「はははっ、ダイアナ。それくらいにしてやれよ。こいつ、もう喋れないんだからさ」

私が楽しげに男を嘲笑っていたら、後ろから楽しげな静止の声が入る。高継くんに言われ、私は仕方無く男の額に銃口を当てた。

「サヨウナラ」

男の恐怖に揺れる目を見ながら、躊躇なく引き金を引いた。




まずは動かなくなった男の左腕をもぎ取る。伽北くんが上着を脱いで、男の腕を自分の空いた左腕に引っ付けた。

「どうですか、今回の腕は」
「んー…」

伽北くんは唸ってから一言、「イマイチ」と答える。

「大きさといい形といい、俺にあってると思うけど…使いにくそうだな、長いから」
「まぁかほちゃんは身長低いもんなー」
「うるせぇよ!」

高継くんのからかいに伽北くんが直ぐに食いつく。いつもの事だ。クスクス笑っていたら「笑うな!」と怒られてしまった。伽北くんが持っていた腕を放り投げる。ぐちゃりと血が飛んだけど、その場にいる私達は気にも止めなかった。

「高継くん、目は取らないんですか?」
「え?あー、いいかな。こいつ確か青かったし」

私の問いかけに高継くんは頭を掻きながら答えた。確かに、“これ”の目は青かったなぁと思い出す。高継くんは赤い瞳だ。左右同じ色にしたいんだろう。

「そういうダイアナは?心臓」

伽北くんに聞かれる。取ってやろうかと刀を取り出した所で、私は首を振った。

「これはちょっと大きすぎるので…」

私に合う心臓は、人間の少女ぐらいの大きさが丁度いい。それ以上でもそれ以下でもダメだ。“これ”の心臓は大きすぎるために、私には合わない。血の行き通っていない、冷たい心臓の代わりを思い出す。嗚呼、早くあれとおさらばしたいなぁ。

「余ったのは何時もみたいに“あの人たち”に渡すか」
「そうだな」

伽北くんの言葉に高継くんと頷いた。あの人たちに渡すなら、成るべく鮮度のあるものを渡さないと。私達は早速、それを担いでその場を後にしようとした。が、

ばさり

翼をはためかせる音が聞こえて、振り返る。金色の羽が舞い散る中、銀色の髪をした少女が一人、そこに立っていた。赤い瞳の少女は、恐ろしいほどに生気のこもっていない瞳で私達を見据える。
何処からとも無くやってきたその少女に、驚き目を丸くしていたが、直ぐに、伽北くんが動いた。
さっきの余り物を放って、刀を取り出し、少女を襲う。刀が少女の腹を貫いた。血がその場に舞う。

「やっと…やっと見つけた!赤い瞳の少女…!」

まさか彼が動くとは思ってなかったから、私と高継くんはさらに目を丸くした。

「伽北…なんで?」
「赤い目に少女の心臓ーーお前達に合ったパーツだろ」

刀を引き抜いてニッコリと笑った伽北くんに自然と笑みがこぼれた。彼は、こんなにも私達のことを思ってくれていたのか。なんて嬉しいことか。
地面に倒れ伏せた少女を確認してから、伽北くんがこちらに戻ってくる。そんな彼に気が付いたら抱きついていた。

「え…!!」

びくりと大袈裟な程に体を揺らしていたけど、気にしない。私はこれで本物になれるんだ。彼のお陰で。この気持ちは高継くんも同じみたいだ。伽北くんの頭をポンポン叩いていた。
と、その時だ。

「オマエ達は、本物になりたいんだろぉ?」

唐突に聞こえた声に、私達は先程の少女がいたところを振り返る。そこには倒れ伏している少女ーーではなく、当たり前のように立っている少女。そして、少女の後ろには青い髪の男。
確かにさっき、伽北くんの刀が少女の腹を貫いていたはずだ。それなのに、なんで、

「なぜ生きてるんですか…」

ぽそりと出た言葉に、男の人がくすくす笑った。

「こいつさ〜、死ねない躰なんだってよ。便利だよな〜」

死ねない、躰だって?
そんなのあるはずないじゃないか。だって、だって。人は必ず死ぬものなんだろう?

「死ねない、なんて。誰が信じるかよ!大人しく目と心臓寄越せ!」

次に動いたのは高継くんだった。地面を蹴って、少女に向かって飛び込んでいった。続いて伽北くんも刀を持って飛び出す。私も、銃を手に少女に向かって飛び出していった。





△▼△▼△▼△▼△▼




「ぁ………がはっ」

口の中に砂が入り込んできた。それを吐き捨てる。所々が損傷してしまっているが、問題はなかった。問題と言えば、

「なんで……!」

死なない少女だった。

何度刺しても何度撃っても、彼女は表情一つ変えないで攻撃を仕掛けてくる。しかもそれは強烈で、私達三人が束になって掛かっても意味が無かった。

「くそっ…直ぐそこにあるのに!」

高継くんが地面を叩いた。
なんでなんで、そこにあるのに手が届かないなんて。何と言う仕打ちか。
クスクスと、笑い声が聞こえてきた。

「オマエらさ、足りないパーツを欲しがってるんだろ?」

声は男だった。少女の後ろに立って、飲み込まれそうな程に真っ黒な目でこちらを見据えてくる。
無言の肯定。口を開かなかった。
男は続ける。

「直ぐそこにあるじゃん、足りないパーツ」
「え?」

驚き、どこだどこだと首を振る。キョロキョロ探しても、その場にいるのは私達が敵わない少女と、男と、………目が合った。

伽北くんと高継くんと。

まさか、

「お互いがお互い、足りねぇパーツを入れ替えたらいいじゃん?」

声が、どこか遠くに感じた。
「そっか」と高継くんが呟く。そうだ、最初から近くにあったんじゃないか。私に足りないものをこの二人は持っていて、この二人に足りないものを私が持っている。

「お互いの欠点を補い合えばいいんだよ」

そっか。そうか。そうだよ。そうだよね。
高継くんにが腕を伽北くんにあげて。
私が目を高継くんにあげて。
伽北くんから心臓をもらう。
嗚呼、完璧じゃないか。これで。

幻術にでも囚われたのか、私達はそれで本物になれると信じ切った。補う事によって、またひとつ、欠けるものが出てくるなんて簡単なこと、誰一人気がつけなかった。

高継くんが、左腕を伽北くんにあげた。
私が、左目を高継くんにあげた。
伽北くんが、心臓を私にくれた。

これで、これで完全だ。
心臓の代わりを担っていたダイアモンドを取り出して、人工心臓を胸に収める。どくんどくんと脈打つそれに、嬉しさが体を駆け巡った。
やった。これで完全になれたんだ。完全に、本物に、本当に本当に本当に本当に本当に本当にほんとうにほんとうにほんとうにほんとうのほんとうのホントウノホントウ人間二!!!!人間、完全、ホンモノ、ホントウ、ニンゲンカンゼン……

「アハッ、アハハハハハハハハハハ!!!!!!」

ナレタ、ナレタンダ、私ハ!私達ハ!コレデ!!!


「カンペキナンダ!!!!!!!」

アハッ、アハハハハハハハハハハ!!!









狂ったように笑い始めた少女の人形も、ほか二つのようにすぐに止まるだろう。欠けてはならないものを渡して壊れた人形。欠けたものを貰い体につけたことで、体が拒絶反応を起こし壊れた二つの人形。
滑稽滑稽と、悪魔は笑う。地面に転がったダイアモンドを拾い上げ、その場を後にするために歩き始める。それに、不死鳥の少女が続いた。



天に手を伸ばして笑い続ける人形の頬を雫が伝っていった。
果たしてそれが、人形がこぼした涙なのか、はたまた空から落ち始めた雫なのかは、誰も知る事はない。




(完璧を求めた人形達のお話)

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