小説 | ナノ





何百回も生物が生まれる瞬間を見てきた。
何百回も生物が死ぬ瞬間を見てきた。
何千回も死にたいと願った。

何度も何度も、愛した人たちが大切な人達が俺を置いて死んでいった。後を追いかけようとするけど、俺には“死”がないから。死ぬことができない。
ただ、死んでいく彼らを見る事しかできない。

「もう、疲れたな」

生きる事に、存在する事に。どんな方法でも死ねない躰。“死”を拒む躰。
その場に座り込んで視線を落として。ばさりと翼を揺らせば、金色の羽が地面に落ちる。
羽を全て毟ろうとしたこともあった。でもすぐに再生して毟り切る事は出来なかった。
地面に落ちた羽を見つめる。

「死にたいな」

無気力に、そう呟いた。



「オマエの望むものは何だ?」

聞こえた声に顔を上げる。真っ暗。暗闇だけがそこにあった。声は続ける。

「オレの頼みを聞いてくれるのなら、オマエのその望みを叶えてやろう」

これは夢だろうか。今、声は何といった?俺の望みを叶えてくれる?
真っ暗な空間へと手を伸ばした。空を切るだけの手は、それでも、前へ前へと伸ばした。そこにいない何かを掴むように。

「…叶えてくれるのか、俺の望みを」
「オレの頼みを聞いてくれるのなら、な」
「聞く…聞くよ…!どんな頼みも、どんな願いも…!」
「例えそれが、誰かを傷つける事になったとしても?」
「いい!傷付けてもいい!!俺は…!俺は…それでも…この望みを……!!」

それは悪魔の囁きだったのかも知れない。けれど、俺にとってそれは、最後の希望の光とも言えた。
手を暗闇に伸ばす。ボロボロと涙がこぼれて、地面に落ちた羽を濡らした。喉が裂けるくらいに望んで、頭がおかしくなるくらいに願った。
どうか、どうか俺の願いを、望みを、希望を、欲望を!叶えてくれ!この乾きを!癒やしてくれ!

「交渉成立だ」

視界が一気に青に染まった。空の上にいるかのような美しい青。実際、空の上に居たのかもしれない。はたまたそれは幻術だったのかもしれない。だけど、どちらでも良かった。
真っ青な世界の中、水色の髪をした男が笑っていた。周りの青よりもずっと薄くて綺麗な水色。髪についた装飾品の赤。全てを飲み込んでしまいそうな、漆黒の瞳、そして、“翼”。

嗚呼、彼は悪魔だ。

そう思うも、オレの手は今更戻せるわけがなかった。俺の望みを叶えてくれるのなら、悪魔だろうと関係ない。
悪魔が、俺の手をとった。しゃがみこんで、俺の銀の髪を優しく触れる。

「それで?オマエの“欲望(望み)”は?」
「俺の望みはーー」






不死鳥の少女は、悪魔が触れた手をしっかりと握った。
濁りきったその目で、真っ直ぐに悪魔の瞳を捉え小さく笑う。



「ーー“死”、だよ」







(死を求めた不死鳥のお話)

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