視線01


「まもなく、終点です。尚、この列車は折り返し運転となります──」
 頭の中でぼんやりと流れていた車内放送は決して頭の中で作り上げられたものではない。翔子が事実に気が付いたのは、その車内放送が日本語から英語に切り替わったあたりだった。
「…………終点!?」
 上瞼と下瞼によるキスを無理やり中断させカッと目を開く。一番に視界に飛び込んできたのは最近設置されたばかり液晶画面。情報が正しければ、この電車は定刻通りに終点に着くらしい。しまった寝過ごした。思ってはみるものの事態が変わる様子は一向にない。翔子はガクリと頭を垂らした。と同時に、ごちんと鈍い音。
「痛っ」
 感想は何故か重複して聞こえた。頭を垂らした先で目を泳がせると、発声源はすぐに見つかった。
 相手はまだ寝惚けているらしい。翔子の小さな肩に小さな顔を埋めて言葉にならない声をあげている。
 埋められていても分かる。彼女は相当な美人だ。服のセンスもいい。脚は長いかどうかは分からないが綺麗だし、翔子の首を擽るショートヘアーも似合っている。もし翔子が男だったら、多分一目惚れをしているところかもしれない。女であっても、若干心は奪われているが。
 そして何より、可愛いという言葉より、綺麗という言葉の方が彼女を表すのに相応しい。
「……起こした方がいいよね」
 彼女に見惚れていてすっかり忘れていたが次は終点だ。彼女の行く先がどこかは知らないが、起こしておくべきだろう。翔子は触れることを躊躇いながら、彼女の肩でちょんちょんと指を叩いた。目を開いたところで声をかける。
「あの、次終点ですよ?」



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