扉が開かれし時01


 いつか世界を変えられると思っていた。
 お小遣いは少なかったから、新聞に挟まっているチラシを細く丸めて筒状にしては、兄に戦いを挑んで修行をしていた。紙の剣はすぐに折れてしまうから、戦いの前に量産したり、三本をひとまとめにして強度をあげたりしていた。一度も兄には勝てなかったが、身に付けた剣術は千単位ほどあるだろう。
 剣術だけでは勝てないと思って魔術も学び始めた。学校のノートにびっしりと魔方陣を描いたり、基の呪文を改変して独自の魔法を作り上げたりした。改変の際に文字を誤ったのか、自作の魔法を使うことは出来なかったが、唱えた魔法は数えきれない。
 何千、もしかすると何万もの剣術と魔術は、今でも確かに体に染み付いている。使えと言われれば、すぐにでも技を繰り出すことが出来るだろう。
 だが、世界は優しくなかった。
 どんなに剣術を駆使しても運動部には勝てないし、どんなに魔術を披露しても成績は上がらない。
 結局世界で優遇されるのは運動能力の優れた者と成績上位者、そしてコミュニケーション能力が抜群な人だけなのだ。
 呪文を唱えれば「狂ってる」と言われた。習得した覚えはないのに、その言葉の意味は痛いほどに分かってしまう。
 それからは幼い頃の修行の成果を人に公開することを止めた。誰からも干渉されないように心の奥底に仕舞い込んで、封印の呪文で固く鍵を掛けている。封じるための呪文を解くことは、二度とないだろう。
 でも、きっといつか。
 きっといつか、自分の力を分かってくれる人が現れるはず。
 そう信じて二十年間生きてきたが、現れる様子は皆無であった。
 そんな大学二年生の秋の事。



- 1 -
[▲prev] | [▼next]




Back / TOP
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -