勝負姉弟04


* * *

「全然、分からない……」
 動画編集は、予想以上の難問だった。
 元からパソコンにダウンロードされていたソフトで動画編集が出来ると知り、早速試しにデジカメで撮った映像に字幕をつけてみたのだが、あまりにもホームビデオ風で身内ネタっぽく仕上がってしまった。
 今回の対象には学校の生徒も含まれているが、主なターゲットは受験生だ。受験生が楽しい、ここに入学したいと思うようなものにしなければいけない。ホームビデオ風に仕上がってしまえば、何だこんなもんかと離れてしまう可能性だってある。
 しかし実際問題、私がパソコンで出来る事といえばワード・エクセル・パワーポインターなどの社会に出ても役立つようなことだけだ。それだけで動画編集をすると言ったのはどこのどいつだ。私だ。
 クラスメイトの前では、「私には映像編集の知識がない」と告げた。だからきっと、クオリティが低くても許してくれるだろう。しかし私はそんな私を許すことが出来ない。
「どうしよう……」
 今更「やっぱり無理」だなんて言えないし、かといってクオリティが低い状態で受け渡すことも私のプライドが許さない。
「動画編集 ソフト 無料」で検索をかけ、数ページ飛ばした後、不意にそのリンクは姿を現した。
「動画編集、無料で受け付けます!?」
 サイトの説明で書かれていた数文字に目を瞠り、私はその勢いでそのサイトのリンクを開いた。
 サイトはいたってシンプルな作りだった。「WELCOME!」の文字が私を迎え入れ、その下にはサイトの概要が書き綴られている。
『この度は、当サイトに足を運んでいただき誠にありがとうございます。
 当サイトでは、管理人・憂がフリーソフトを使った動画編集の方法をちょこまかと書いたり、お手伝いさせていただいた動画の中でも特に気合を入れた所の解説を行っていこうと思っています。
 また、当サイトからの依頼も受け付けておりますので、お気軽にどうぞ』
 更に下には管理人のプロフィールや、どのページがどんなことについて扱っているかなどが書かれていた。私は、出来れば動画編集の方法について知りたかったのだが、専門用語が並べられていて、興味が完全に削がれてしまった。
 ポインタを彷徨わせながら、ようやく依頼受け付けのページに辿り着く。
 依頼は、どうやらメールでしか受け付けていないようで、そこで私の心はブレーキをかけた。
「流石に、誰か分からない人に頼むのはどうなんだろう」
 個人情報が流出しかねないし、見ず知らずの人に対して無料で動画編集を行ってくれるというところにも疑問を覚える。
 大人しく自分でやるか、けど。
「期待、」
 裏切りたくない。
 メールアドレスが書かれたページの前で、私は一人固まってしまった。
 少なからず、私なら他の人に作れないような動画を作れると思っている人はいる。そして私はそんな人の期待を裏切りたくない。けれども、他の人に作らせて、それを「私が作りました」と言えるわけがなかった。
 悶々した頭の中でその自問を復唱し、私は遂に、一つの解に辿り着いた。
「よし、やっぱり」
「あれ、姉ちゃん俺のサイト見てどうしたの?」
 頭上から降ってきた声に、私は思わず振り返った。
「……はい?」
「だから、俺のサイト見てどうしたのって」
 俺の、サイト?
 言っている意味が分からなかった。確かこのサイトを作ったのは憂という人物で、決して相良優ではない。どう転べば「憂=相良優」になるというのだろう。
「信じてないね?」
「信じるわけ、ないでしょ」
「じゃあ、ちょっとそのメルアドにメール送ってみなよ」
 なんて淡々と言ってくるものだから、私は渋々ながらメールフォームを立ち上げ、指定されたアドレスに「はじめまして」とだけ書いてメールを送信した。
 送信したのを確認すると、優はパソコンを自分の方に向け、専用のユーザーページにログインした。その間、私は口をぽかんと開けてしまっていた。優のキーボードを打つ早さは尋常じゃない。私もタイピングで鍛えられていた方で、その速さなら誰にも負けたことがない。だが、そんな私の速さを超越してしまうほどに、彼の指捌きには無駄がなかった。
「ほら」
 唖然としている間に、優は自分のメールソフトを開いていた。画面には、さっき私が送ったばかりのメールが表示されていた。
「……嘘だ」
「嘘じゃないって。ほら、メールアドレスだって姉ちゃんの」
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」
 コイツは。
「……姉ちゃん?」
「何でっ、何でアンタはそんなことに頭を使っちゃうのよ!」
 今の指捌きも、彼の手で作ったのであろうサイトも。
「アンタのその好奇心は、他の事に使いなさいよ!」
 負け犬を押しのけ、私は自分の部屋に駆け込んだ。



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