勝負姉弟03


 さて、困った。クラスメイトの前で声高らかに宣言した通り、私には映像編集の知識がない。今までの生活にそんな知識は必要なかったし、そんなことに脳の容量を使いたくない。
 考えていても何も進まない。まずはどうすれば映像編集をすることが出来るのかを知ろう。そう思って、私はパソコンのあるリビングに顔を出した。
 だが、先客がいた。
「……優」
 相良優。私がこの世から今すぐにでも抹消したい、私の恥。
 優はヘッドフォンをしていたが、私の気配を感じたらしい。長い前髪の隙間から、私の目を見つめた。
「姉ちゃん」
「姉ちゃんって呼ぶなって言ってるでしょ」
 つっけんどんに私は彼に言葉を返す。話したくもないが、現在パソコンを使っているのは優で、今すぐにでもどいてもらう必要があった。
 優から目を逸らし、パソコンの画面に視線を移す。
「パソコン、使いたいんだけど」
「……今じゃなきゃダメ?」
「ダメだから言ってるんでしょーが」
 普通の会話をしているだけなのに、イライラが心の底から湧き出てくる。いつから、ここまで仲が悪くなったのだろう。――突っ放したのは、私の方か。
 優はしばらく口を閉じて何やらパソコンで作業をしていたが、ようやく重たそうに開いた。
「いいよ、あらかた終わったから」
 そう言って、彼は私の方へパソコンの画面を向ける。どこかそこが自分を見下しているように見えて、私は荒々しく優が座っていた椅子を奪い取った。弾き出された優は素直にその場を明け渡し、自分の部屋に戻って行った。

 小さい頃の優は、何事に対しても好奇心旺盛で、どんな危険も顧みずに道を真っ直ぐに駆けていくような、そんな少年だった。
 昔から勉強漬けだった私はそんな彼によく引きずり回され、一緒に怒られた。母親に「お姉ちゃんなんだからちゃんとしなさい」と何度も叱られ、その度に誰もいないところで泣き散らかした。それでも、優がただ私に「ありがとう、楽しかったよ」と言ってくれるだけで、悲しい気持ちも何処かに消えて。少なからず、私は弟に対して憧れを抱いていた。
 好奇心旺盛で分からないことはすぐに調べに行く。弟の生き方を見習って、勉強もそう行うようになった。すると小学校に上がる頃には勉強が好きになっていて、それは今でも続いている。私は今でも昔の優をよく思い出すし、子供の頃の思い出を愛おしく思っている。
 だが、今の優はどうだ。
 中学校三年生になったというのに、まともに学校にも行っていない。しかし普通に両親と会話をしているので、人と関わるのが嫌で学校に行っていないという訳ではないらしい。まあそんなこと、私の知ったことではないが。
 行かなくなったのは小学校六年生の辺りからで、最初は学校に行くのが億劫という理由だった。それから何日か休んで、学校に行く機会を幾度となく逃した。
中学生になれば、環境も変わるし、また持ち前の好奇心で学校生活を楽しんでくれると思っていた。なのに、優は始業式から二週間経った辺りから、また部屋に篭る生活を始めてしまった。
 両親は学校に行かないことを心配していたが、母親がいない間に家事全般を行ってくれていたから、どっちでも構わないという姿勢を取っている。優もそれに甘えてなのか、頑なに家から出ようとしない。
 私は何もかもに腹が立っていた。どうして学校に行かないのか。どうして勉強を第一に考えないのか。どうして将来に必要なスキルを身に付けようとしないのか。どうして高いところにある数値に振り向きもしないのか、どうして、どうして。
 どうして私の好きだった相良優は、負け犬になってしまったのか。
 その答えは、未だに導き出すことが出来ずにいた。



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