仁王くんって不思議な人だね。と微笑んだ彼女の方こそ、不思議な人と呼ばれる分類に入るんだと思う。いつも俺を見ているようで見ていない、一体どこを見ているのか、でもちゃんと俺のことを見ていてくれている彼女の瞳が、俺は好きだった。後ろから抱きしめて耳元で彼女の名前を囁けば、くすぐったいよと言いながら腕の中から抜け出ていった。
「おまんさんは一体なにを見とるんじゃ」
「なにって?仁王くんしか見てないよ」
「そーいう意味じゃのうて…。あーもうしかもサラっとそんなこと言うのがまた…」
「素直な女はお嫌いですか?」
「クッ…好みのタイプじゃない、と言ったら?」
「むー…意地悪っ」
「意地悪な彼氏は嫌いかの?」
「ばか。大好きでーす!」
クスクスと笑いながら、飛びついてくる彼女を軽く受け止める。たわいない会話を交わしながら何でもない時間を二人で過ごす。
「そういえばね、」
「なんじゃ」
「この前ブンちゃんが面白かったんだよ!授業中にブンちゃん寝ちゃっててね、なんか小さな声で呟いてるなーって思ってたら、いろんな食べ物の名前ずっと連呼してて、」
「食い意地はっとるのう、ブンちゃんは」
「だよね。それでそれだけでも面白かったんだけど、ブンちゃんがいきなり、」
「……なあ」
「大きな声でピーナッツってブンちゃんが、…って仁王くんどしたの?」
「いや…楽しそうじゃと思って」
「ブンちゃんが?」
「違う。なあ、そのブンちゃんって呼ぶのやめんしゃい」
「え…なんで仁王くん」
「それ」
「え?」
「仁王くんってのもやめんしゃい」
「仁王く…」
「雅治って呼びんしゃい」
「ま、雅治…?」
「そう。もう他の男の名前を呼んだらお仕置きぜよ」
「…雅治の意地悪」
「意地悪な彼氏は嫌いかの?」
「もうっ。雅治なら大好きに決まってるでしょ?」
そう言って俺を見た彼女の瞳の中には自分が映っていた。もっと俺を見んしゃい。そしてもっともっとその瞳を俺でいっぱいにしんしゃい。
蒼白した瞳じゃ
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