≠月子
料理は女の子の特権だと思っていたけれど、どうやら違うらしい。それを直に体感したのは、好きなひとへお菓子を作ろうと思ったときだった。目の前には、初心者向けのレシピ集。その中でも1番簡単だと書いてあったクッキーを作ったはずなのに。完成したものは、いつも見ている美味しそうなクッキーとは程遠い残骸であった。
「錫也ってすごかったのか…」
そんなことを思ってみたり。同じクラスの錫也は料理がとても上手い。いつも月子達にお弁当を作っていて、それを羊や哉太が奪い合うように食べているのを見ると、料理の腕はなかなかのものなのだろうと思うし、実際、この間味見をさせてもらったときには、手作りなのかと疑うほどの美味しさだった。そんな錫也はお弁当作りだけではなくお菓子作りも上手で。その甘い美味しさはみんなを虜にする。そう、宮地くんだって。クールな宮地くんが甘いもの好きだと知ったのは、錫也が弓道部に持ってきた差し入れを、とろけるような瞳で食べていることに気づいたときだった。だから、わたしだって、甘いものを作ってあげたいと思ったのに。
「こんなことだったら、最初から錫也と一緒に作れば良かったかも」
「何をつくるんだ?」
「そりゃあクッキーだよ」
「む。自分用か」
「自分用なわけないでしょ。宮地くんにあげたいと思って……って、え、」
「俺にくれるのか?」
「みみみ宮地くんっ な、なんでここに」
「いや。お前の姿が見えたので、つい」
「えっ」
予期せぬ宮地くんの登場にわたしの胸は高鳴った。というかこの残骸、どうしよう。とりあえずさりげなく背中に隠そうとして、ゆっくりと移動しようとする。カタン、あ、まずい…!
「なんだ、もう完成していたのか」
「いや、あの、これは」
「違うのか?」
「違わないけど…あの」
「もしも、」
「え?」
「本当に俺にくれるのだとしたのなら、」
「あ、あの宮地くん、」
「少しは自惚れてみてもいいだろうか」
甘いと思えば甘い
意外にも見た目よりも悪くない味クッキーは、宮地くんが全部食べてくれました。わたしだって自惚れちゃうよ?ねえ、宮地くん