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不破 雷蔵


「(あ、まただ。)」

くのいち教室は大半が行儀見習としての入学のため、学年が上がるにつれて人数が少なくなっていくのだそうだ。
その少ないくのたまの最上級生の一人が、あの人。
図書委員会に所属してからというもの、休み時間には必ず図書室へと来て、定位置と化している図書室の一番後ろの壁側。一年の頃からずっとそこへ腰を降ろし、本を読んでいるのだと中在家先輩から聞いた。随筆詩集農書兵法書絵草紙と本の内容に統一性はなく、単純に本が好きなのだろうと感じさせる。
たまに園内で姿を見かけることもあるが、読んでいなくともその手には必ず本が握られている。この人を指す言葉としては、読書家という言葉では足りない。同じ意味だけどもなんとなく、本の虫という言葉の方が合っている気がする。

身長は僕より少し低くて、髪も目も揃って黒色。苦無を使っての接近戦が得意で、同じく苦無の得意な七松先輩ともよく組み手をしているのだとか。その他成績優秀、文武両道。まるで同級生の彼みたいな評判の先輩は、今日もいつもの場所へと座り、本を読む。

 …さて、ここまで先輩の事を語ってきたが、ただ一つ、僕が先輩の事で知らないことがある。それは。



を呼んでいる姿しか見たことないんですが
(僕は、五年間ここにいるがまだ一度だって先輩の声を聞いたことがない。)

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