尾浜 勘右衛門
人気の少ない生物委員の飼育小屋の裏から、すすり泣く声が聞こえた。きっと、泣いている人物は頭に描いた通りの人。
回って見れば、ほらやっぱり。声が漏れないようにうずくまって、泣いているのは彼女。
「やだなぁ、また泣いてるの?」
「っぅ、ふ…な、てなんっか、ない、ぇす、」
「そっか、ごめんごめん。 ねぇ、少しだけこっち向いてよ。」
少し待てば、顔が上がる。鼻と目尻が少し赤い。それにふふっと笑って、目尻についた水滴を取るように口を当てる。
「な、」
「ホントだ、泣いてなかったね」
だってほら、今君の顔は驚いている。
君の涙にキスをする(強がりな君のために)ザクっ、ザクっ、ザクっ、
小さな穴を手鋤で掘って、そこに真新しい布で包んだ何かを埋め、再度土を被せる。周りの地面より少し高さが出来た土の上に花を手向けて、手を合わせる。
壊れた柵の合間をぬって、猫かなにかが忍び込んだのだろう。柵の中に広がった朱は一つの命が消えたことを示していた。
まだ幼いその命は、何を思って生きて何を思って死んだのだろうか。
「尾浜先輩。」
「うん、なぁに?」
「帰りましょう。」
「もういいの?」
「はい、付き合ってくれて有難うございました。」
「ううん。 それじゃ行こうか。」
ごめんね。立ち上がる前に小さく呟いた声は君に届いただろうか。
エンドロールは一緒に見る(淋しがりな君のために) 一月ほど前からだろうか、こうして避けられているのは。
「ねぇ千景一緒に町に行かない?」
「お、尾浜先輩!いやちょっとあの…」
「あれ、今日も用事あるの?」
「は、はい!あの…ごめんなさい。」
「んーん、それじゃお土産買ってくるねー」
でも、理由は知っているんだ。五年になって学級委員に選ばれたことを祝おうと、君が兵助達と一緒に準備をしているのを。
申し訳なさそうな顔をする君に、こっちが申し訳なくなってしまう。でも、声をかけたときの困った顔が可愛くて、休みの度に声をかけてしまう。
小松田さんに外出届けを渡して、学園の外へと出ていく。ああ、今日は皆に何を買っていこうか。
気付いていないふりをする(顔に出やすい君のために)「へえ、それはお客さん、奇怪な体験をしたもんだなぁ。あぁそうそう、そいつは――――こんな顔じゃあなかったかい?」
「ひっ、――――?!」
こんな暑い日には怪談話に限ると、六人で集まって始まった怪談話。お岩さんに番町皿屋敷、牡丹燈籠と有名な話を終えて三郎の番が回ってくる。何を話すのかと期待をすれば、のっぺら坊。よく聞く話だが、この男、最初は普通に話していたのに最後にお得意の変装をして見事にのっぺら坊になるのだから、隣にいた千景は声を出すのを我慢してぎゅうと俺に抱き着くのだった。
一人一つ話そうと言っていたが、千景がこれだから。と言って途中で解散させる。ハチは兵助に頼み込んで、自室に泊まらせるらしい。怖い話が嫌いな癖にハチはこういうのを進んでやりたがるから不思議だ。ま、そのおかげで一緒に寝れるんだけど。布団を二つくっつけて、いつもは無い温もりを感じる。
「うう、勘右衛門先輩、まだ起きてますか?」
「だーいじょうぶだってば、起きてる起きてる。」
「先に寝ないでくださいね。」
「うん、約束。」
君が眠るまで起きている(怖がりな君のために)「あれ、珍しいね勘右衛門一人?千景ちゃんは?」
「雷蔵。 うん、ちょっとね色々あったみたいで。」
「ふぅん、そっか。これは…折り紙?」
「うん、鶴作ってんの。千羽は流石に無理だけどね。」
「なにか叶えたいことでもあるの?」
「叶えたいっていうか、うーん…まぁそんな所かなぁ。」
「ふぅん。…少しでも多い方がいいでしょ手伝うよ。」
「ありがとー」
君が実習で人を殺めたことを知りました。そして、部屋に閉じこもっていることも。
抱きしめてあげたいけど、君はそれを望まないでしょう?だってこれが俺達の決めた道だ。だから俺は、いるかいないか分からないけどカミサマってやつにここで祈るよ。君が壊れてしまわないように。
穏やかな君の明日を祈る(俺の好きな君のために) 桜が風に吹かれて舞い上がる。俺達は今日、六年間の学業を終え学舎を卒業し、雛へと孵る。
最後に残った僅かな荷物を風呂敷に包んで長屋を出れば、同級生達が委員会の後輩達に囲われていた。
色々な事があった。楽しいことも苦しいことも辛いことも辞めてしまおうかと思ったことも。でもそれも今では良い思い出だ。
一つ、心残りがあるとするならば、千景のこと。学年が一つ違う彼女は、あともう一年ここで学ばなければならない。卒業をしてしまった俺は、その間彼女に何があっても動けることはないのだ。
君は、強がりで寂しがりで最近こそ上手くなってきたけれど隠し事が下手で怖がりで、俺は俺がいない間君が上手くやっていけるか少し心配なんだ。過保護かな?でも、きっとそれは、君が卒業を迎えてからも変わることはなさそうなんだよね。
一番は、俺がこのまま学園に残って、ずっと一緒にいてあげたいんだけど、それは出来ないから。
「ねぇあのさ、受け取ってよ。俺の苗字。」
俺の代わりを用意する(これは先にいなくなる俺のために)俺が君のためにできること
(君のためならなんだって!)
(ぶわっ)
(あはは、泣かないでよ)
(だ、だって、だってぇ…)
(…で、お返事は?)
(っ…あの、その、ふつつか者ですが宜しくお願いします。)―――――
5(月)い(1日)の日記念であげたものを少し手直し。
呼び方で関係が変わってる雰囲気が出せたらいいな、と。
勘ちゃんあいらぶ!
タイトル:
花畑心中(2013.05.01)
(2013.10.27.再投稿)