短 | ナノ






久々知 兵助


「解せぬ。」
「なに、いきなりどうしたの椿さん」
「聞いてくれるか尾浜くん。」
「聞かなきゃ何されるか分かったもんじゃないもん」
「もんとか言うな。」
「はいはい、で?」
「なんで、兵助は豆腐ばっかりに目を向けてんの。私アイツと恋仲なんだけど、なにどういう事?」

思わず尾浜くんの首元を掴み、がくがくと前後に揺らす。気持ち悪い?気持ち悪いのはアイツの豆腐に向ける目だ馬鹿。

「そりゃあ豆腐が好きなのは知ってるけれども!でも、でもね尾浜くん、普通女ほったらかしで、たまに合った休みに一人で豆腐屋行ったり、作ったり、眺めたり、味比べしたりする?もうちょっとこう、きゃっきゃうふふ、時々にアハンな事もあるんじゃないの?ねえ健全な男子としてそこら辺どうなのちょっと。」
「うぇっ…いや、俺にそんな事言われたってね椿さん…兵助に直接言いなよ。」
「言おうとしたら、ごめん千景今(豆腐から)手が離せないだとか、これから竹谷君に豆腐料理を振る舞うんだとか、外出届出して外出したあととか…!っていうか竹谷くんに手料理振る舞うって何?もう意味わかんない!」
「うんうんわかった、わかったから取りあえず、手離してくれると嬉しいな?!」

じゃないと息苦しい!その言葉で知らず知らずのうちに手に力を込めすぎていた事に気づいた。あ、ごめん。パっと手を離すと膝立ちだった尾浜くんはそのまま地に沈む。あ、本当ごめん。

「いたた…」
「ご、ごめんね。」
「うん、大丈夫だよ。 それにしても兵助らしいというかなんというか…」

ルックス良し、成績良し、性格は一部を除いて良し。学園一いや下手したら日ノ本一の豆腐好きなんじゃないかとか、実は人間の姿は仮の姿で本当は豆腐小僧なんじゃないか、と言われている程に久々知兵助は豆腐が好きだ、いや愛しているんじゃなかろうか。おやつとして高野豆腐を持ち歩いている程に。
そんな彼と合同実習で組み、ベタな話だが暴漢に合いそうな所を助けてもらい、その時から異名など気にならない程に彼に好意を持った。
そうして先日、彼から付き合ってくれと言われ、断る理由なんてなく、むしろこちらこそお願いしたいと返事をし恋仲となり早三月。彼の恋愛遍歴は知らないが、私にとっては初めての人。周りの話を聞いていた分、期待をしていたのだ。
なのに恋仲としての甘い雰囲気など欠片もなく。

「まだ三月だけど、皆そういうもんなの?」
「や、まぁ人にもよるだろうけどねぇ。でもまぁ、何も無いっていうのは…」

尾浜くんのその一言に肩を落とす。やっぱりそうだよね、何かしらの行動はあるよね。はぁ、とため息を一つこぼして、持ってきていたお団子の入った包みを彼に渡す。

「はい、これあげる。」
「なにこれ?」
「町一番のお団子屋さんのみたらし。」
「ちょ、それ並ばないと買えないんだけど。」
「実習でそこの若旦那に貰ったの。尾浜くん甘いもの好きでしょ?いつも愚痴聞いてもらってるお礼。」
「別に気にしなくてもいいのに。」
「あら、じゃあいらない?」
「有難うございます椿様。」

尾浜くんの恭しい態度に笑う。あぁ少し気分もすっきりしたようだ。そろそろ昼休みも終わりに近づく頃だろう、お暇しようと足に力を入れて立ち上がる。

「それじゃあね、尾浜くん。」
「また何かあったらおいでよ、話くらいなら聞いてあげれるから。」
「ありがと。」

手を振って、部屋を後にする。長屋の廊下を歩き、角を曲がろうとした時にその人は現れた。

「千景。」
「兵助。」
「こんな所でどうしたのだ。忍たま長屋に何か用?」
「いや別に、特に何も。」
「ふぅん?」
「なに、なんで怒ってんの。」
「別に怒ってない。」
「あ、そ。…あ、ねぇ次の休みなんだけど、」

今日は何かに追われる様子もないようで、立ち去るような気配が無い。ただ、話をしているとどこか棘のある様子になっていく。あまり怒ることの少ない兵助には珍しいが、聞いても答えないなら無理に突っ込む必要は無いだろうと話を切り、次の休みの予定を聞けば、耳を疑う言葉が出てくる。

「…俺より、勘右衛門と行ったほうが」
「は?なんで尾浜くん?」
「だって最近、千景は勘右衛門とばかり話してる。」
「…私が尾浜くんの事が好きなんじゃないかって事?」
「、付き合う前から、千景はいつも勘右衛門と二人でいるし、俺といるよりも楽しそうだし…」

イラッ
心に湧いた感情に従って、手を握りしめて拳を作る。そして目線を下にさげた、目の前の兵助の頭目掛けて振り下ろす。

「…っ?!」
「いったぁ…」
「なにす」
「馬っ鹿じゃないの?」
「な」
「尾浜くんには愚痴聞いてもらってただけ。付き合う前は相談に乗ってもらってたの。いいお友達。なんで俺に愚痴言わないかって?兵助がもう三月も経つのに一緒に出かけもしてくれないし、話だって豆腐に関すること優先して聞こうともしないからじゃない。」
「っ、だってしょうがないだろ!」
「は?」

なにを阿呆な事をこいつは言っているのか、変な勘違いをしている兵助に誤解を解こうと説明すれば、しょうがないとの声。なにがだ。私が豆腐に負けるのなら豆腐と付き合っていろと言おうとすれば先に兵助が口を開く。

「、なにしたらいいのか、とか何したら喜んでくれるのかとか、わからないんだ…」
「…は?」
「だから、その、恋仲なんて関係を作るの、初めてで…」

顔を真っ赤にしてそう告げる兵助に、言おうとしていた言葉が勢いを無くす。なんだ、そっか、兵助も初めてなのか。肩の力を抜いて、声色も優しくして話しかける。

「あのね、尾浜くんとは本当に何も無いよ。」
「あぁ、悪い。俺、誤解して…」
「ううん、私も…色々ごめんね。」

向かい合っている兵助に一歩近づいて、だらんと体の横に下がる両手に手を伸ばす。少し強めにそれを握って、声をかける。

「ねぇ、兵助。私もね、あなたと同じなの。だから、私もなにをするのかなんて話にしか聞かないんだけど、でもまずはお互いのことをよく知るべきだと思う。だって私、あなたの趣味や好みって尾浜くんから聞いたことくらいしか知らない。」
「そう、だな。俺も、知らない。」
「うん。だからね、次の休み空いてる?」

こくり、と縦に振られる頭。それを見て言葉を続ける。

「あのね、私実習もお使いも、忍務もないの。兵助も何もないなら、私と一緒に町に行って、色々とお店回ったりしながら兵助の事教えて。」
「…ああ、勿論!俺にも千景の事、教えて欲しいのだ」

下げていた頭をあげて、こちらを見つめながら告げる兵助に、笑顔を向けるとどこかほっとしたような表情になった。断るとでも思ったのだろうか、ここまで言ってそんなことする訳無いのに。

「うん。…あ、じゃあまた後で当日の事話そう。私次に座学があるから。」
「このあとはずっと授業なのか?」
「えぇ、夕食まで。」
「そっか…あ、あのさ…じゃあ迎えに行く、だから一緒に夕飯食べよう。それでその時に休みについて話そう。」
「っうん!それじゃあ、また後で。」

思わぬ言葉を聞いて、急いで長屋から庭に出て、くのいち教室側との壁を一超え。ああどうしよう、にやけが止まらない。
昼休み終了の鐘の音を耳にしながら、教室へと入るとしばらくして先生が入ってきて座学が始まる。夕飯まであと二刻半、早く終わらないだろうか、なんて思いながら板書を取るのだった。


の育てかた
(まずはお互いを深く深く知りましょう)




―――――
5い(5月1日)の日ということで、まずは兵助。
やばい似非すぎて泣ける。
兵助好きの方々ごめんなさい。

(2013.05.01)
(2013.10.27.再投稿)
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