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林 厘太郎


「〜♪」

 鼻歌混じりに、蕾が少し混じった色とりどりの花をバランスよくひとつにまとめ、一つまた一つとブーケを作るのはこの店の店長であり幼なじみの林厘太郎。

ぱちん、ぱちん、

 その隣でブーケとなった花束を簡単に包装して合わせ目をホチキスで止めていく俺は、もう何度ついたかわからないため息をまた一つ、心の中で零す。

ぱちん、

ぱちん、

かしゃ、

「おい、リン。」

 芯のなくなったホチキスを机において、隣にいる厘太郎の名前を呼ぶ。
 彼は手を休めることもなく、目をこちらに向けることもなく、声だけを返す。

「なんだい千景」
「なんだい?じゃねーよ。その締まりの無い顔どうにかしろよ」
「えぇ?」
「自覚無いの?おまえ今相当顔が緩んでるんですケド」
「あぁ、ごめんね。でもパンダくんがさぁ、」

 またこの話か。と呆れた視線をやるもそれに気づかず、手だけは動きを止めずに話をしはじめる。
 お得意先の一つである動物園に、春から新しく入った非常勤パンダに心奪われ、出勤日と解れば少ない休み時間にも足しげく通い詰める厘太郎。
 そのパンダに、先日のクリスマス、パンダ型の手編みのポーチをプレゼントした所、自身には一切そのような姿を見せはしなかったものの、大層気に入った様子で翌日からそれをぶら下げていたそうな。
 それを見てからずっとこのような作業をしている間に思い出すのか、まるで恋をしている女性のように顔をほころばせる。そんな表情もまたイケメンとかなにそれ爆発しろ。
 とかくそのパンダに入れ込んでいる厘太郎に対して、最初こそはまた始まったといつものように流していたものの、こう毎日毎日とあればさすがにイライラしてくるもので。パンダがそんなにいいのかよ、なんて言えるわけもなく、今日もまた彼のパンダくんがいかに愛らしいかを話すのだ

「それで、笹子さんに渡して貰ったときにパンダくん、あんなに喜んでくれて、」
「で、そのあとお前が作ったの知ったら、返しそうになったんだろ。」
「そうそう!でも、恥ずかしがりながらも受けとってくれて…あぁもうパンダくんってなんて可愛いんだろう!そうは思わないかい?」
「へーへー、そうですねー」

 あぁ、もうこいつは本当に人の気持ちも知らないで。
 なんで俺が、お前の花屋で働こうと思ったのかとかなんでお前に好意をもつ者さえも引いていくパンダ話に付き合ってるのかとか何も知らずに、こいつはただ幼なじみだからという理由だけで俺が付き合っているのだろうと思っているんだろう。そんなはずないだろ馬鹿野郎。
 お前が好きで、離れたくないから同じ店で働いて、お前が俺じゃ無い誰かの話をするんでもその笑顔が見ていたいからつきあってるんだよ厘太郎。
 大人になってもどこか純粋な部分を持ち続けるコイツはきっと、俺が想いを告げなければ永遠に気づかないのだろう。
 気づいてほしいけれど、それでもこの関係を壊したくないなんて、なんて矛盾しているのだろうか。でももしも告げて受け入れてもらえる事もできず、気まずくなって疎遠になるぐらいならば。

「…芯が無いからちょっと買ってくる。」
「あぁ、行ってらっしゃい。」

 告げられなくても、想い合えなくても、お前の隣にいたいんだ。

―――――
ブレないリンリンが好きです。
最近はグリズリーさんも可愛いと思います。


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