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5-3


 土井先生と見慣れぬ二人組が学園長先生の庵へと入る。既に土井先生以外の先生方がそこにはおり、これ以上は無理だと判断する。幸い障子戸は開いたままだったので、木々に隠れて中の様子を見遣る。

「儂は大川平次渦正と言う。 こ度はきり丸の窮地を救ってくれた事、本当に感謝をする。」
「いえ、別にそんな…純粋な気持ちじゃなくて、利害が一致したから助けたようなものですし…」
「じゃが、きり丸が助かったことには変わりがあるまい。…ここは学び舎でしてな。生徒は皆わしの家族のようなものじゃ。それを助けてもらって礼を言わない親がいるものか。 本当に、礼を言う。ありがとう。」


 どうやら後輩であるきり丸を、南蛮人は助けたらしい。そういえば奴に教えた学園までの近道に最近山賊が出ると聞いた。いやまて、それは数日前に奴にも教えたはずなのだが。
 相変わらずの記憶力の無さに頭を抱えている内にも話は進んで、学園長の発言で意識が戻される。

「そこで、じゃ。のう、キース殿。急ぎの用がないのであれば、きり丸の足の容態が良くなるまで学園にいてはどうじゃ?」

 何故そうなる。

 口頭で構わないと言っているんだから、それで済む話ではないのか。以前から常々思ってはいたが、この学園は忍ばせる気が無いのではないか。


「いや、それは流石に…有り難い申し出ではありますが、遠慮します。」
「なぜじゃ?別に宿泊費を取るわけでもないのじゃから、悪い条件ではないと思うのじゃが…」
「…ここは学舎なのですよね?学舎に一時的ではなく、何日も外部の人間がいるというのは生徒の皆さんが落ち着かないのではないでしょうか。」
「ふむ。 じゃが、これはきり丸と…土井先生からの申し出でもあるのじゃ」


 な…?!音として出ていきそうな言葉を飲み込む。が瞬間、濃紅の髪をもった男の後ろに控える者から視線が飛んだ。揺れる気配はあろうども、一般人に解らない程度だったはずだ。音も出していない。ならばなぜ、一般人がそれに気づく。――こいつらは何者だ。

「本当に、宜しいのでしょうか」
「勿論じゃ。」
「…それでは、お世話になります」


 嗚呼なんという。学園長先生がしつこく言うから彼らは此処へ数日泊まるというではないか!
 土井先生の案内の下、空き部屋へと連れていかれる二人の後を追おうと皆で動こうとすると、庵から待ったと声がかかる。

「六年生、そこにおるのだろうて。‥‥出てきなさい。」

 誰が、という点まで言われては出て行かずにはいれないだろう。むけていた身体を渋々といった形で庵へと戻し、茂みから出ていく。

「学園長先生、何故あんな素性の知れぬ者達をここへ招き入れ、尚且つ泊めるなど!」
「まぁ落ち着かんか。学園の生徒が助けられたのだ、礼を返すのは当然じゃろうて。」
「ですが学園長先生」
「あの者は危害を加えない限りは何もしてはこん。それにどこかの間者でもないじゃろう。」
「何故言い切れるのですか。」
「そうじゃのう…」

* * *


 下にいる彼らを、穴からそうっと見つめると土井先生が持ってきた雑炊を食べていた。
 食べ終わり、どうやら今日はもう床に着くらしく、土井先生の指示の下布団を敷き二言三言喋ると先生は部屋から退室し、部屋の明かりも消え、暗闇が広がった。呼吸をする音だけがその場には響く。寝静まったことを確認してから部屋を後にした。

「さて、どうする?」
「決まっている、明日から奴を見張る」
「本当にするの?」
「間者かそうでないか解るまではな」
「私は間者ではなさそうだと思うがなぁ」
「なんだと?」
「………だが、ただの迷い人でもないように見える」
「そうだな、確かに何処か怪しい!」
「ならば個々で疑いが晴れるまで、奴を監視しようではないか」

 長屋へと戻り、六人で顔を突き合わせながら会話をする。明日は合同実習があるから、そのあとから奴等の行動を監視する事になり、皆自分達の部屋へと戻っていくのだった。


「あの者は危害を加えない限りは何もしてはこぬよ。それにどこかの間者でもないじゃろう。」
「何故言い切れるのですか。」

「そうじゃのう…


長年の勘、といったところか」




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―――――
視線に対する困惑と六年生の見解。

(2013,0414)






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