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4-2


俺はもしかしたら、川に落ちる前までにいた場所とは時代レベル…いや下手したら世界レベルで違うところで来てしまったのかもしれない。

「あのぉ、すいません?」
「あ…あぁ、えーとサイン、でしたね。…こちらでよろしかったですか?」
「はい! うわぁ、なんかカッコイイですね!南蛮って感じがします!…あ、」
「どうかしましたか?」
「でもこれ、なんて読むんですかぁ?」

 慣れない筆記用具で名前を書くと、英字が読めないのだろう困ったように笑うその人に、名前を告げると、キースさんですね、わかりました!とニコニコと笑いかけてくれる。…ううん、なんだか和むなぁ。 遅れて入ってきたランサーも、同じようにサインを求められ、読みかたを説明させられていた。


* * *



「学園長、…お連れしました。」
「入りなさい。」

 失礼します。と土井さんが先に部屋へと入っていく。さぁ、と促されてワンテンポ遅れて室内へと入ると、部屋にいたのは一人の老人だった。しかし、派手な服装だ。だが不思議と似合っている。そんな事を考えていると、座りなさいと声をかけられた。…正座か、足痺れないといいなぁ。

「お主がきり丸の言っていた…キースで合っておるかの」
「はい。キース・ヌァザレ・ソフィアリと申します。 彼はランサー。私の連れです。」

 斜め後ろに座るランサーに目線をやり名を告げれば、彼は小さく会釈をする。

「そうか。儂は大川平次渦正と言う。 こ度はきり丸の窮地を救ってくれた事、本当に感謝をする。」
「いえ、別にそんな…純粋な気持ちじゃなくて、利害が一致したから助けたようなものですし…」
「じゃが、きり丸が助かったことには変わりがあるまい。…ここは学び舎でしてな。生徒は皆わしの家族のようなものじゃ。それを助けてもらって礼を言わない親がいるものか。 本当に、礼を言う。ありがとう。」

 大川さんは真っ直ぐな瞳をこちらに向け、礼を言う。こんなふうにきちんと言われることなんて滅多にないから、なんだか少し気恥ずかしい気持ちになった。

「さて…ソフィアリ殿。聞けば、町までの道案内をきり丸に頼んだとか。」
「はい、その通りです。」
「ご存知の通り、あの子は足を挫いておりましてな。医者から暫くは安静にしているようにと言われておりまして、その約束が果たせなんだ。」
「はあ。ですので、口頭での説明で私の方は構わないのですが。」

 そう伝えれば、困ったようにそれがのうとため息をこぼす大川さんの言葉に土井さんがつづく。

「きり丸がですね、自分がやると言って聞かなくて。」
「…はあ。それはまた、責任感がつよいといいますか…。」

「そこで、じゃ。」

 なんとも言えずに言葉に詰まると、大川さんは俺に告げた。きりちゃんが治るまで、ここにいてはどうかと。…ちょ、えええ。

「いや、それは流石に…有り難い申し出ではありますが、遠慮します。」
「なぜじゃ?別に宿泊費を取るわけでもないのじゃから、悪い条件ではないと思うのじゃが…」
「…ここは学舎なのですよね?学舎に一時的ではなく、何日も外部の人間がいるというのは生徒の皆さんが落ち着かないのではないでしょうか。」
「ふむ。 じゃが、これはきり丸と…土井先生からの申し出でもあるのじゃ」
「え?」

 その言葉に土井さんへと目線をうつす。目が合えば、へらと笑う土井さん。

「二人にどうしてもと乞われましてなぁ…勿論、貴方をこのまま送っても良いのですが、そんな事をしては毎日のように恨み言を言われかねん。 ですから、このご老体を助けると思って、泊まっていただけないか。」

 おいしいお誘いではある、が。俺達はもしかしたら世界レベルでの迷子かもしれないワケで。(だって、衣服や電柱街頭等といったものがなくて、でもサインなどの言葉があるなんて、非現実的すぎるけどそれしか考えられないのだ)
 帰る手立てを考えるには、まずは情報を集めるべきで。その為には学舎のような閉鎖的空間よりも、町に出る方がいいわけなんだけれど。

「キース殿、」
「‥‥本当に、宜しいのでしょうか」
「勿論じゃ。」
「それでは、お世話になります」

 でも、しょうがないじゃないか。

 たまたま、森で出会って。お互いに困っていたから助けあっただけの関係なのに。俺だったらこんなふうに頼み込んだりなんてしないのに、あの子は自分の身を案じてくれて、こんなふうに頼み込んでくれて。土井さんだってそうだ。得体の知れぬ自分に対して、優しくしてくれて。…ここで申し出を蹴ろうなんて、俺には出来ない。

 目の前には、笑顔を浮かべる大川老人と土井さんの姿。

 暫くの間よろしくお願いしますという意味を込めて、二人に向かって頭を下げたのだった。



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―――――
忍術学園に滞在することに。

(2013,0406)






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