たびはみちづれ


溜め込んでいた有給を使って長い休みを取ってみた。小さなショルダーバッグに財布だけを詰め込んで、乗ったことのない路線のバスや電車に揺られた。わたしは今、宛もない旅をしている。
見知らぬ土地はどこに何があるかわかるはずもなく気を抜けば迷子になりそうだった。すこしの不安。けど、それ以上のときめき。知らない景色、穴場のお店、人との出会い。色んな発見があってそれは新鮮だった。通りすぎていく風でさえ、照らす太陽でさえ、いつもと違うものみたい。あてのない旅はきっと感じるもののすべてがその目的となるのだと、そんな気がした。
でも、いつまで続ければいいのだろう、わからなくなった。宛がないからこそ時間の許す限り続く旅。けれどわたしはこれまで放浪なんてしたことがなかったから、目的もなにもなさすぎてどうしてよいのか途方に暮れた。

そうしてわたしは気付けば見慣れた場所にいた。帰ってきた、というよりは帰りたくなったという方が正しいだろう。よく知った景色は新鮮味なんてないけれどひどく安心感をもたらした。そしてふと、思う。例えばここに誰かが待っていてくれたら、と。

「おかえり」

ああ、そうだ。こうして笑顔でおかえりを言ってくれる人がいれば。それはどんなに幸せなことだろう。

「千里、」
「旅はどうやったと?」
「…うん、うん。とっても楽しかったよ」
「そら、よかったばい」
「君があちこち行きたくなっちゃう気持ちもね、少しわかった気がする」

そういうと彼のきれいな瞳が僅かに見開き、動揺した。ああ、珍しいなんて、そんな風に余裕なのは旅の効果かしら、などと考えていたら妙に可笑しくって。これまで胸の内に蟠っていた靄のようなものがうそみたいに霧散していった。

「だからね、これからもたくさん旅をしてくるといいよ。わたしが温かい家で待っててあげるから。帰ってきたらおかえりを言ってあげるから」

わたしが、あなたのそういう人になるよ。

そう笑って見せれば、彼はわたしの手を取ってくしゃくしゃな笑顔で「ありがとう」と呟いた。



プロポーズされた→迷う→なんやかんや承諾
という流れでしたわかりにくい(笑)そもそも人目に晒さず永久にフォルダの肥やしにしようと思ったのに友人がミセロミセロとおぞましくしつこかったからいけない:(´^ω^`):

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