十五夜お月さん


月の光が四方に筋を伸ばし一際輝きを放っている。今夜は月がきれいだなぁ。携帯を片手に握り締めひとりごちてみた。もしもし、今日の月見た?すっごくきれいだよ。なんて、そんな些細な事柄じゃあ電話をする理由にもなりはしない。ほんとうはもっと明確な理由を持っているけれど。それをメインにしてしまうのがどうにも恥ずかしいし、妙な引け目を感じた。きっともうたくさんの電話を貰ってうんざりしているだろう。こんな時間になって、今さら。月の光が眩しい。臆病者が浮き彫りになる。月に嗤われている気さえした。いつだって美しい月なんかにこんな冴えない人間の苦悩がわかってたまるか。八つ当たりだと知りつつも遥か彼方で輝くそれを睨めつける。眩しさに瞳の奥がじんわりと湿った。
片手に握り締めたままの携帯が突然震え始めた。慌てて見やればどんな奇跡だろう。話したい人からの電話だった。緊張で震える指で画面をなぞる。耳元にそれを宛がうまでの時間がもどかしかった。

「もしもし?」
「ねぇ、今空見てよ。めちゃくちゃ月光ってる」
「う、うん。わたしもさっきから見てた」
「なんだ、そうなの」
「…うん、きれい、だよね」
「うん、中秋の名月ってやつだしね」
「そうなんだ、」

心臓が耳の奥で脈打つみたいにうるさくて、うまく会話を出来ている気がしない。同じ口実でくれた電話が嬉しくて、このチャンスを無駄にしたくなくて。頭と心臓がリンクしてぐるぐると駆け回る。

「僕は月見団子よりケーキがいいな」
「いいね、生クリームや苺がたっぷり乗ったの、」
「あー、食べたくなってきたじゃん」
「…あの、」
「明日、ケーキ食べに行きたい。付き合ってよ」
「…うん、うん。わたしで良ければ、是非」
「良くなきゃ誘わないデショ」
「…うん、」
「…じゃ、明日また」
「あっ、待って…!」

淡々と流されていく会話はついに終わりを迎えそうになって、思わず目の前の窓にすがって大声を出していた。一拍遅れて聞こえた声は、煩わしそうにむっとしている。

「あ、あのね、今日、遅くなったけど、誕生日…」
「いい、いらない」

強い口調で放たれた拒絶に喉が詰まった。いらない、わたしの言葉なんて、そういうことだろうか。乾いた唇が次の言葉をうまく切り出せない。

「今はいらない。…どうせなら、明日、直接言って」

けれどわたしがなにか言うよりも先に受話器からは照れくさそうにして吐き捨てられた言葉が響いた。今度は違う意味合いで、言葉が詰まる。

「というかさ、僕に掛けさせるなよ。来年はもっとちゃんとしてよね、ばーか」

そう言って今度こそ途切れた通話。呆然と画面を見つめる。時間が経って暗くなったそこには月が反射していた。見上げると、今度は微笑まれているような気がして、ああ、わたしはなんて単純なんだろうって、おかしくなった。

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今世紀最大で書けない病患ってるんですが友人にLINEで尻蹴り上げられたので苦し紛れに書き殴ってみました。こんなのをお祝いにしていいものかというところですが、ツッキー誕生日おめでとう!!!!!

それにしても女の子の情緒不安定さが(笑)生理かな?←


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