「 雨宿りなう。びしょ濡れ寒い雨爆発しろ。 」

屋根のあるバス停に緊急避難したわたしは行き場のない怒りをケータイにつぶやいた。
まったく今日はついてない。プリンが食べたくなって近くのコンビニに行ったらたまたま売り切れてて、がんばって少し遠くのコンビニに足を延ばしてみたら、この通り雨に遭遇。なんて、ついてなさすぎる。まずコンビニにプリンがないってなんなの。いつもいろんな種類たくさん置いてるくせにさ。肌に張り付くシャツの不快感も相まって思わず舌打ちをする。髪から滴る水が頬を伝って口に入って色んなもやもやと一緒にぺっと吐き出した。

「柄わっる」

人ひとりいないどしゃ降り雨の空間にぽたりと声が落ちてきた。膝を抱えてベンチに座っていたわたしは低く抑揚のないその声に驚いて振り返る。どうして、いるの。

「…部活、は?」
「中止や」
「家反対じゃなかったっけ」
「そこのコンビニにしか置いてへんぜんざいあんねん」

大きな傘を閉じてわたしの隣に腰かけたのは一週間ほど前にケンカした友達だった。やだな、気まずくて仕方ない。ほんとなんでいるんだろ。

「…自分こそなんでおんの」
「近所のコンビニがプリン売り切れてたからここまで来たの」
「ほんで通り雨にやられたんか」

馬鹿にされるだろうと思いつつ小さく頷くと案の定鼻で笑われた。やっぱりまだケンカは続いてるらしい。謝る気はないけど、というより喧嘩の内容すら馬鹿馬鹿しいもので覚えてさえいない。

はあ、と小さくため息を吐くと頭になにかを被せられた。財前を見ると前を向いたままこちらを見ようともしないで、ただ一言「まだ使うてへん」とだけ言った。頭のそれを見ると確かにまだきれいなタオルで。もう一度財前をちらりと見てわたしは無言で頭を拭いた。雨の音と財前のイヤホンから漏れる騒がしい音楽がやけに耳につく。その音を掻き消すようにわたしは乱暴に手を動かした。拭き終わってもそのまま頭に被って財前をシャットダウン。はやく帰ればいいのに。

「ありがとうぐらい言えへんの」
「…ありがと」
「ついでにごめんも言うたら」
「そっちが言えば」
「俺が謝罪できる人間に見えるか」
「見えない」

思わず噴き出してしまった。即答したからか財前がこっちを睨んでいるのがタオル越しにでもわかる。すると突然タオルの両端に手が伸びてきて引っ張られた。財前と真正面から見つめ合う形になる。

「ざ、財前?」
「…」
「あの、なに」

財前は無言のままわたしの目を見据える。妙な沈黙が居心地悪くて声をかけるのに無反応だ。不思議と目は逸らせなくてわたしは硬直する。

「…もうええ」
「へ、」
「喧嘩やめにしたる」
「もう怒ってないの?」
「…こないな空気になる方がしんどいわ」

深いため息を吐いた財前にまたタオルを引っ張られた。近付く顔にどきりとして反射的に目を瞑る、と、その勢いのまま頭突きを食らった。痛いと叫んで額を押さえると久しぶりに財前が笑う。

「は、俺の方が痛いっちゅーねんこの石頭」
「ないわほんとありえない」

変に意識してしまったことを誤魔化すように大袈裟に怒った。喧嘩なんてしたからだろうか、なんだか財前と普通に話すことすら緊張する。

「雨、弱なってきたな」
「…ほんとだ」
「帰ろ」

立ち上がってわたしの手を取った財前は広げた傘に引き込んでくれた。少しだけわたしの方に傾けられた傘に心臓が浮遊する。

「財前、」
「なんや」
「…ありがと」
「…おん」

冷たくなった手に財前の豆だらけの手が絡まって、寒かったはずの体はあっという間にぽかぽかになっていた。

「 前言撤回。相合い傘なう。雨って素敵 」




友達から異性に変わる瞬間みたいな話。つぶやきを財前がこっそり見てたらいいな、とか。
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