あれもしたいこれもしたい、どこに行きたいなにを食べたい。まだやりたいことたくさんあるんです。ほんとう、山のように。でもね、からだが言うこときいてくれないんですよ。こころだけがどんどん前をみて突っ走っちゃってね、からだはおいてきぼりなんです。それでなにもかもぐちゃぐちゃに分裂してはりさけちゃいそうなんですよ。いっぱいしたいことあるのにね、そんなの全部はりさけた隙間からあふれてっちゃって、段々、しにたい、で、うめつくされちゃいそうで、もう、どうしようもなくこわいんです。

まっさらなシーツの上で彼女は果てしない空の向こうをみていた。あらゆる希望がない交ぜになった透明の雫が色の失せた頬を音もなく滑り落ちる。隔たりの先にある光を見つめるその瞳はどこまでもくろく、いやなものを思わせる。

「死にたければ死ね。そして死ななければよかったと後に永劫悔み続けろ」
「生きたいのなら今を苦しめ。したいことも出来ない、食いたいものも食えない。何一つとしてままならない現状を恨み憎み存分に己に刻み付けていろ」

彼は言う。お前は生きると。何も疑わない迷わない眼でただ真っ直ぐに彼女を見据えて。彼女の中にある未来だけをひたすらにみていた。

「それに記せ。記した数だけ私が叶える。行きたい場所も、食いたいものも、したいことも、全て私が現実にしてやる」
「…だが死にたいのなら、そう記せばいい」

彼はまっさらな新品のノートを彼女に放り選択を迫る。さあ、どうする、と。彼女は震える指先でそっとノートを開く。まだなにも記されていない真白の紙がやけに眩しいと思えた。ぽたり、ぽたり。白紙だったそれに染みが広がっていく。それこそが、彼女のこたえだった。



我が家の三成さんはとても優しい人です。
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テーマ「人外ファンタジー」
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