うちの学校は兎角イベントごとをなんでもやりたがる。ハロウィンやクリスマスなんかのビッグイベントからねこの日やらポッキーの日なんていう語呂を合わせただけのしょうもない日まで。陽気な連中は年中アホ騒ぎだ。
そして今日は一年の中で割と大きな部類に属する七夕祭。誰が用意したのやらどでかい笹が校長の銅像横に置かれている。ああ、いい塩梅に笹が校長に被さってロン毛に見える。

「げ、先輩もそのクチの人やったんですか」

短冊を書きたいという友人に付き合って例の笹のところへ来ていたわたしはぼんやりと銅像と笹のアートを鑑賞していた。すると後ろからよく聞きなれた抑揚のない声が響き、視線をそちらへ移す。そこには予想通りの人物が生意気にポケットに手を突っ込んで気だるげに立っていた。

「なんだい突然。先輩に対して随分なご挨拶だね」
「あー、どうもお疲れさんですー」
「はいどうも。ところで何してんのこんなとこで」

面倒であることを惜し気もなく晒した挨拶をくれた後輩くんはわたしの質問に嫌そうな顔をしてあれ、と少し離れたところを指差した。そこにはいつの間に来たのか校内随一のホモコンビがなにやら路上漫才を繰り広げているようだった。

「あれに付き合わされたんすわ」
「ご丁寧に織姫と彦星の衣装まで…気合い入ってるねぇ」
「あれ作るんも手伝わされてん…」
「…そりゃあ、気の毒にね」

意気揚々と漫才をするホモコンビを忌々しげに見つめて大きなため息をひとつ落とした彼は、で?と唐突にわたしに疑問符を投げ掛けた。

「先輩は何してはるんすか」
「わたしも友だちの付き添い」
「なんや、願い事しに来たんとちゃうんですね」

なーんだと小首を傾げた彼に、なるほどさっき掛けられた言葉に合点がいった。どうやら彼はわたしもお祭り騒ぎに乗じている人間だと思っていたらしい。

「別に願い事なんてないしね」
「ほんま冷めてはるわー。かわいげな」
「オイ最後ぼそっとなんっつった」
「いやいや誰もブスとは言うてませんよ」
「表出ろ」

ふっと底意地の悪い笑みを浮かべたこの男はどうやら溜まった鬱憤をわたしで晴らそうという魂胆らしい。どうもこの後輩くんは先輩に対する敬意というものが欠けている。テニス部の面子は一体どんな教育をしているのだろうか。

「てか財前くんこそ願い事しないの?」
「俺は人に頼まんでも自分で叶えたるんで」
「なんというドヤ顔」
「大体あないなもんに書いて願い叶ったら世話ないわ」
「なんというドライ」

キャッキャウフフと楽しそうに笹の周りに集う人々を鼻で嗤う財前くん。なんだか彼の精神面が心配である。まあそんなことを本人に言おうものなら皮肉を倍にして返してくれそうなのでそっと心に秘めておくけど。

「まあそんなイベント事で色恋のひとつもないカワイソウな先輩に朗報っすわ」
「…ワーイナニカナー」

くそ腹の立つ後輩くんにそう言って手渡されたのは一枚のチケット。見ればそれは地元でそこそこ人気のカフェの割引券だった。

「どうしたのこれ?」
「一昨日行ったらくれはったんです。七夕限定で和菓子出す言うてました」
「なに!それは行かねば!」
「ほな今日の放課後校門前に集合で」
「はい?」
「なんですかそのアホ面」
「いや、わたし財前くんと行くの?」
「はあ?当たり前やないですか。人にやるだけやって自分はいかれへんとか意味わからんわ」
「た、確かにね」

至極当然のように言われどこか腑に落ちないものの納得してみせると財前くんは満足げに鼻を鳴らしてみせた。この子はいちいち態度が尊大である。

「それに言うたでしょ」
「ん?」
「俺は自分の願いは自分で叶えるて」
「はあ…?」

財前くんは最後ににやりと悪どい笑みを浮かべてみせると放課後まで券をなくさないようにとわたしに念を押し、そのまま去っていった。

このあと何がどうなるかなんてことはわたしにも、織姫や彦星なんかにもわかるはずはなく、多分知っていたのはあの生意気な後輩くんだけだったんだろうなあと、わたしは後に思うのだった。



140708
七夕があまりにも何もない一日でしかもどしゃ降りだったので雰囲気だけでもと遅れ馳せながら書いてみました。が、七夕感がない(笑)そして久しぶりの財前くんわからなすぎて緊張した…。ドキドキっすわ…。

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