愛だの恋だのなんてのが、この頃はひどく面倒臭い。相手を想い、相手のことを考え、尽くすなんてのが、特に。面倒というか、そんな余裕がないというか。心身をすり減らして生き長らえるこの日々では最早自分のことしか考えることはできない。いや、人類の勝利の為心臓を捧げるなどと大義名分を掲げている今、それさえもままならない。
だからと言ってわたしもただの人間であり、まあ、か弱い女性なのだ。人肌が恋しいような切なく寂しい夜もある。そしてそんな時には自分よりも強くて頼れる、所謂異性に、一時の甘さを求めてしまうのだ。

夜も更けた頃、とある部屋を訪れた。扉の前で控えめに名前を呼ぶと少し遅れて呆れたようなため息と共に入室の許可が投げ掛けられる。このやりとりは今日が初めてではない。

「やっぱり、忙しいんだ」
「そう見えるんなら帰れ」
「じゃあ見えない」

皺一つないベッドの脇に遠慮がちに腰掛けるとそれまでデスクワークをしていた彼は小さく舌を打って立ち上がった。コツコツと小気味良い足音が近付いてくる。

「風呂は」
「入ったよ。歯も磨いたし、明日の支度もしてる」

隣に腰掛けた彼に引かれそのまま腕の中へと擦り寄った。背は大して変わらないというのに腕を回したその身体はやっぱり自分よりも分厚く屈強で、安心する。

「なら自分の部屋に戻ってクソしてさっさと寝ろ」
「ここじゃないとぐっすり眠れないの」
「知るか」

冷たい言葉とは裏腹にわたしをベッドに横たえた彼はまるで子どもをあやすように優しく髪を梳いてくれる。それだけでとろりと、瞼がゆるむ。

「ねぇ、リヴァイ」
「なんだ」
「あなたも寂しくて人肌が恋しくなるときってないの?」

微睡む意識の中ぽつりとそんな言葉がこぼれた。壁の外へ出るたびに仲間を失って、失って、また失って。人類最強だって、最強なだけのただの人だから。わたしも彼と同じく今日まで生き長らえたからこそ思うのだ。

「さあな」
「それとも最強の兵長様は心の作りも他と違うのかしら」
「そうなる前にお前が来てるだけだ」
「…え?」
「…しゃべる暇があるならさっさと寝ろ。お前を寝かしつけねぇと仕事に戻れんだろうが」

そう言って苛ついたように目を覆われた。それまで彼の方をじっと見つめていたから誤魔化されたような気がしてわたしは口を尖らせる。不服だと、子どものように頬を膨らませて。
そんなわたしを鼻で笑った彼はもう一度「寝ろ」と急かして目元を撫ぜた。それから額に掛かった髪を慣れた手付きで払って、キスをくれる。そうされるといよいよ眠たくなると、彼は知っているから。

「仕事もほどほどにね、」
「…ふん」

わかってる、そう言いたげに目を細めて彼はデスクに戻っていった。早く帰ってくればいいなとわたしは一人分のスペースを空けるよう壁際に身を寄せて、隣の温もりを待ちながら溶けるように穏やかな眠りに就いた。


寂しいときは、まあ、その時どきによって手が空いていて都合のいい人のところへ行くわけで、人肌を求めるということはイコールそういうことになるものだ。わたしもそれは嫌いじゃないし、寧ろ身体を重ねなければ寂しさは埋まらないとさえ思う。けれど、彼とは一度だってそんなことになったことがなくて。それなのに他の誰よりもどんな行為よりもただ頭を撫でてくれるだけでこんなにも胸が満たされてしまう。それは何故か、なんてのは、考えるのも馬鹿らしいことなんだろう。

愛だの恋だのなんてのは面倒なんだけど、でも、まあ要するにわたしは自分勝手な女なのだ。



兵長ハピバ大遅刻(笑)
title/カカリア
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