彼の豆と傷だらけの手に触れるのが好きだ。かさついて所々が固くなっていて、そこを指のはらで丁寧になぞるのがすき。みみず腫みたいに残った傷痕も骨張った逞しい手によく馴染んで素敵だと思う。すりすりと愛しさを込めて傷痕を撫でると、その手の持ち主はくすぐったそうに少しだけ手を動かした。

「ごめんなさい、いやだった?」

空いた方の手で書物を読む彼はこちらも見ずにそっと首を横に振る。拒絶でないことは端からわかっていたことなので、なんにせよわたしはこの手を離す気などなかった。彼もきっとわかっているのだろう。だからこそ片手を差し出したままでいてくれるのだ。

肌寒い空気に晒された手の甲はうっすらと冷たい。けれど手のひらはまだ温かい。その対比がまた心地よくて片方の手で彼の手のひらから掬い上げるように指を絡ませた。もう片方でそれにそっと蓋をする。自分の手では到底あまるその武骨で大きな手がじわじわと己の体温に馴染んでいくのが酷く安らいだ。

「…あたたかい」

ぱたりと、彼が本を閉じる。空気が僅かに揺れたのを感じてそっと顔をあげると、彼は目を細めて重なりあった手を見つめていた。ああ、笑っているのか。無表情の中に滲む穏やかな色にわたしはひとりほくそ笑む。

「…寒くはないか」
「平気。今はすごくあたたかいよ」

そうか、とまた目を細めた彼の手がわたしの頬を包んだ。豆だらけのかたい手のひらに猫のように擦り寄って、わたしはつくづく思うのだ。幸せだ、と。

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テーマ「人外ファンタジー」
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