用具倉庫の壁に寄り掛かり昼寝をしていた。ここは日陰になっていて気持ちがよく、実は人もあまり来なくて静かな穴場なのだ。やたらと響く奇声を放つ喧しい連中もここならば気にせず眠れるだろう。

「いけいけどんどーん!」

そう思っていたのだが、どうやらわたしの考えは砂糖よりも甘かったらしい。喧しい連中のひとりがこちらへ突っ込んできたことで耳のすぐそばで壁が大破する音が盛大に響いた。

「っみ、耳が…!」
「すまんすまん、勢いがよすぎたみたいだ!」
「壁って勢いだけで壊れるんだっけ!」
「細かいことは気にするな!」

間近で響いた爆音に耳の奥がぐわんぐわんと唸る。勢いあまって壁に穴が開くほど突進してきただと、冗談じゃない。一歩間違えたら壁ではなくわたしの顔面が破壊されていたかもしれないんだぞ。冗談じゃない。

「そ、それで、そんなに勢いよくやって来て一体なんの用?」
「ん?特に用はないぞ。ただおまえの姿が見えたから」
「は…?」
「今日はまだ一度も姿を見ていなかったから、やっと見つけて嬉しくって」

穴の開いていない辺りに手をつきわたしに覆い被さるように馬乗りになった小平太が尻尾を振り乱す巨大な犬に見えた。差し詰めわたしはお気に入りの玩具といったところか。

「どうした?」
「な、なんでもない。とにかくそこを退いてちょうだい。わたしお昼寝したいの」
「ええっ!私とバレーしないのか?」
「しない」
「じゃあ走りに」
「行かない」
「なーぜーだあああ!」

わたしの言葉にそう叫ぶと人の肩を鷲掴み力任せに振り乱す小平太。力の強さに頭が揺れて壁に打ち付けられる。煩い、そして痛い。

「ちょっ痛い!駄々こねないで!」
「だったら私とバレーしろ!」
「いだだだ!だあああもう!いい加減に!」
「おわっ」
「おとなしくしろ!」

わたしに覆い被さるようにしていた小平太の胸の中心を掌で強く押し体勢を崩した隙にそのまま押し倒した。自分の上にのしかかったわたしを見て目をぱちくりとさせる小平太は予想だにしないことに余程驚いたのだろう。固まったまま動かない。

「小平太もこのまま一緒にお昼寝なさい。たまには静かに時を過ごして大地に耳を澄ませるの。精神統一よ!」
「…昼寝はいいが、眠れそうにないし、精神統一もこんなんじゃしばらくは無理、かな」
「?」
「だってほら、私の心臓どきどきして破裂しそうだ」

眉を八の字に下げて困ったように笑う小平太の顔はほんのりと赤みを帯びていた。厚い胸に耳を当てれば確かに早鐘を打つそれの鼓動を感じる。ばかね、こんなに意識されていたんじゃこっちまで恥ずかしくなるじゃないか。けれどそれを悟られるのはなんだか癪だし、なによりこのまま静かにしていて欲しかったからわたしは胸に耳をあてたままそっと目を瞑った。

「ふふ、修行だと思ってわたしの気が済むまでじっと耐えてることね」
「えっ!寝る方向なのか!」
「当然。わたしのお昼寝を邪魔しようとした罰よ」
「…なんだよ、まったくひどい女だなー」

拗ねたような声音とは裏腹に小平太の顔はずいぶんと楽しそうに笑っていた。わたしはそれを視界の端に捉えてまたゆっくりと彼のそこに耳をくっつけた。とくとくとく、と小刻みに打ち付ける鼓動は子守唄のようで安心する。

「まあ、一緒に居れればなんだっていいんだけどさ」

温かな体温に包まれて、おやすみと頭を一撫でされればわたしはいつの間にか心地よい眠りについていた。用具委員長のけたたましい怒声が響くその時まで、彼とこのままで居たいと思う。





七松流壁ドンは壁が負けると思いまして。
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