※現パロっぽい?



わたしには不満があった。それなりに恵まれた環境で育っていたと思う。それなりに不自由なく、それなりに楽しい周囲、交流関係、趣味、生活。それでも、友人の家に行くといつも思う。家にいることはこれほどに温かく感じるものかと。これほどに心休まるものかと。つまりわたしは家庭に不満があるわけで。家に帰って家族と顔を合わせても、苦しいしかなくて、すぐに部屋に閉じこもる。毎日母の顔色を窺い遊びに行った帰りにはご機嫌取りに菓子を買い、言いたいことも言えずに母の言いなりになり我慢、我慢、我慢、愛想笑い。だからって母が嫌いな訳ではないのだけど、出来れば顔を合わせず口を利かず、馴れ合いたくなくて。苦手な人で。父もいないし唯一の肉親である母もそうやって苦手なものだから、要するにわたしには家族の絆だとか家庭の温もりだとかがよくわからなかった。

だから結婚しようなんて言われても正直自分が家庭を築くなんて想像も出来ないしわたしはあの母のように子供にたくさんの圧力を与えてしまうのではないかとか、わたしと同じ思いをさせてしまうんじゃないかとか、そんな不安しか生まれてこなくて、幸せな家庭を想像することなんてどうしても出来なかった。

「じゃあ子供をたくさん作ろう!それから家訓もだ!」

家訓其の一、言いたいことは気が済むまで言い合う。家訓其の二、よく食べよく遊ぶ。家訓其の三、休みの日はみんなでバレーや登山をしに行こう。家訓其の四、何かあったら家族みんなで力を合わせよう。
楽しそうに家訓を次々に並べていく彼を見つめる。そして最後の家訓に「父と母が愛し合ってるときは邪魔しない」と満足気に述べたのを聞いて、わたしはゆっくりと目を閉じた。

例えば子をたくさん産めば、きっとそれらは皆彼に似て快活で豪快で、温かな人に成るのだろう。わたしに似た子が生まれたら、きっと彼に似た子らが彼のように光を与えてくれるのだろう。よく食べよく遊ぶ子らがいると食事の用意も洗濯も掃除も、一緒に遊ぶのもきっとすごく大変で、夜は子供と彼と布団を並べてぐっすりと眠るのだろう。たくさんの温もりに包まれて眠り、そしてたくさんの温もりのために朝を迎える。

目を開けると清々しい朝日が目の前に浮かんでいた。ような気がして、目の前の彼に手を伸ばす。

「それらの温もりを例えば愛と呼ぶのかな」

おわりを迎えるその日まで、わたしにその温もりをくれますか。
伸ばしたわたしの手を取って彼は迷うことなく答えるのだ。

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