怪我をするといつも怒られた。それはもうひどく。まるで罪人みたいにたくさんの大人に責められた。代々優秀な忍の家系に生まれた私は必然的にくの一になることを決められていたから、体や、特に顔に傷を付けてはならないと厳しく言われていた。傷が残っては使い物にならないと思われていたからだ。それでも幼い頃は遊びたい盛りで木登りやかけっこをして遊びたかった。転んで怪我をしたら優しく頭を撫でてあやして欲しかった。幼い私は忍がどうとかそんなものはどうでもよくて、ただ子供らしく甘えたかったし甘やかしてほしかったのだ。

幼い頃に怪我をしてはひどく責め立てられた為か親元を離れた私は怪我をすることが恐ろしくて、怪我を負う度に人目に付かないよう堪えていた。怪我をしたら怒られる、大人たちの鬼のような面がいまでも瞼の裏にこびりついて度々ちらついては体が震えていたから。今ここには私を責める人はいないのだけど、幼少に根付いたトラウマは無条件に私を恐怖に陥れてからだや思考の自由を奪った。

久しぶりに大きな怪我をしてしまった。
腕から滴る己の血を溢さないように患部を誰にも見つからないように手で押さえ込んで、ガタガタと体を震わせながら人目に付かないところへ隠れて小さく小さく蹲った。早く止まれ、血が止まらないと、誰かに、見つかったら、見つかったら、

「君!どうしたんだい!」

急に肩を叩かれてびくりと飛び跳ねた。どうしたと、患部を覗かれて、その人は目を見開いた。どうしよう、見つかった、見つかった見つかった見つかった見つかった見つかった見つかった!

「何してるんだ!早く医務室へ行こう!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、許して、怒らないで、ごめんなさ」
「怒ってなんかいないよ!早く手当てをしないとこんなに血が出てるじゃないか!」

呼吸がうまく出来ない。嫌だ許して、ごめんなさい。混乱する私を目の前の人が慌てて抱き上げた。驚いてその人の顔を見ると鬼のようではなくて、大丈夫だよと、優しかった。


「…はい、思ったより傷は深くなかったからこれでもう大丈夫」

綺麗に巻かれた包帯を見つめて、それから目の前の彼を見た。やわらかい笑顔を向けられると礼を言わなければいけないのに声が出なくなる。

「変なところをお見せして申し訳ない」

無理矢理気丈に振る舞うと鼻の奥がじんわりと痛んだ。思えば泣くことも、昔から許されなかった。

「いいんだ。何か事情があるようだし」
「…は、い」
「また怪我をしたらぼくのところへおいで。さっきみたいに我慢して放っておくのはだめだよ」

また怪我をしたら。頭の中で言葉が反響して涙腺をさらに刺激した。俯いてぐっと唇を噛み締めるとそれに気付いた彼が心配そうにこちらを覗き込む。

「どうしたの?傷が痛むのかい?」
「…すこし、」
「じゃあ、ぼくがおまじないをしてあげよう!」

ちちんぷいぷい、いたいのいたいのとんでいけ!
俯いたままの私にそう優しく呪文をかけてくれた。ほろ、ほろ。とうとう涙が零れてしまった。

「ありがとう、ござい、ます」
「どういたしまして」

どうにか声を絞り出すと途端に次から次へと溢れてくるそれは拭えども止まってはくれず、さらには優しく頭を撫でられたものだから私にはもう、それを止めることは出来なかった。

「余程痛かったんだね、よしよし」

怪我をするといつも怒られた。それはもうひどく。まるで罪人みたいにたくさんの大人に責められた。幼い私はただ普通の子供らしく遊んで、怪我をしたら優しく頭を撫でてあやして欲しかった。忍だとかどうでもよくて、ただ子供らしく甘えたかったし甘やかしてほしかったのだ。



ちちんぷいぷいって言わせたかっただけ

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