「目が覚めたか、よかった」
「えっと、介抱して頂いて、ありがとうございます」

 わたしを介抱してくれた女性に呼ばれて部屋に来たのは桂さん、それから坂田さん。彼女は部屋には入らずにまたどこかに行ってしまった。そして坂田さんは何故かめちゃくちゃわたしをガン見してくる。困る。

「礼なら俺ではなくこいつの方に言ってくれ」
「あ……、ありがとうございます」
「おう」
「して、お主、名前は? 何故川に流されていたのだ」

 困るといえばこれである。そんなものわたしが聞きたい。

「ええっと……」

 何て答えるのがベストなんだろう。流された理由は分かりませんが、貴方達のことは漫画で知っていまして。……気が狂ってる奴の発言だ。遠い未来から来ました? それもなんか違う。海で溺れたと思ったら川でした? 実際そうなのだが多分これも頭のおかしい奴だと思われる。

「失礼、まずは俺達から話すべきだな」

 言いあぐねていると、桂さんが勝手に話を進めてくれた。

「俺は桂小太郎、お主を助けたこいつが坂田銀時。攘夷戦争で白夜叉と言えば、少しは名が知れているだろう」
「おい、勝手に紹介してんじゃねェよ」

 小五郎ではなくて小太郎なんですね。それは初めて知りました。

「しろやしゃ、は、存じ上げませんが、わたしはみょうじなまえです。桂さん、坂田さん」

 どうやらわたしが考えていた『銀魂』であることに間違いはないようなのだが、どうにも記憶と違う。なんかもっと明るくてエイリアン? みたいなのが居て、少なくとも戦争とかしていなかった気がする。攘夷戦争って、なんだ、日本史の尊王攘夷運動のことか? 高校の授業なんてぜんぜん覚えてないけれど。

「みょうじ殿か。ここは我々攘夷志士が現在拠点にしているところでな、江戸からは距離がある。なるべく一般人を巻き込みたくなはないからな、家はどこだ? 近くなら送り届けてやれるかもしれん」

 送り届けられるものなら送り届けてほしいが、生憎その方法がさっぱり分からない。もう一回溺れたらいいのか?

「家もだけどよォ、お前、結局川で何してたんだ」
「ああ、そうだったな」

 あの、ええと、と、口ごもりながら考えているうちに坂田さんに話を引き戻されてしまった。
 どうしよう、何してたことにすればいいんだろう。
 そもそも、彼らに納得してもらえる言い訳を考えたところで、じゃあ帰りましょうって出来るのか? それで後は気を付けて帰ってね、なんて言われてしまったら、わたしは一体どうやって過ごしていったらいいんだろう。戦争なんか起きている世界で生きていけるのだろうか。

「な、何……してたんでしょうねえ……」

 ともかく、ここで漫画だのアニメだの……、とても信じ難いがそういう世界にワープ? して来ましただの言い始めたら、最悪の場合斬り殺されてしまいそうだ。信じてもらえなさそうだし。
 とりあえず苦し紛れに誤魔化してみることにしたが、彼らはとんでもなく上手い方向へと話を勘違いしてくれたようだった。

「みょうじ殿……まさか記憶が無いのか?」

 桂さんが途端に慌てた顔をする。坂田さんは依然としてわたしを凝視したまま、何やら考えているようだった。

「き、記憶……」
「でも名前は名乗ったじゃねェか」
「な、名前! は、えと、分かるんですが……」
「名前以外思い出せないのか?」

 坂田さんがめちゃくちゃ痛いところをついてくる。対して桂さんは勝手にわたしが記憶喪失であると誤解しているようだ。
 これは、このままそういうことにしてしまったほうが都合が良いのでは?

「お前さ、」
「は、はい」
「変なモン着てたし、死にそうだったけど、髪とか肌とかはここの女よりよっぽど手入れされてるよな」
「えっ」

 坂田さん、そんなこと考えてたのか。ていうかそれでわたしのことめちゃくちゃ見てたのか。
 かなり恥ずかしいが、それはそれで鋭い着眼点をお持ちだ、と妙に納得してしまった。戦争の最中に毎日お風呂に入ってシャンプーもリンスもしている訳無さそうだし。何より今頃わたしは海で遊んでいる筈だったのだから、彼らには言えないが確かに毛の処理や肌の手入れもいつもより念入りにしていた。

「もしかしてお前、天人にでも捕まってたんじゃねェのか……?」

 怪しまれているのかと思いきや、都合が良すぎるくらいの勘違いを披露されてしまった。……一先ずは、その設定でいくことにしよう。


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