千歳のそういうところがすき



「ねんかかってよかと?」
「ん? ねんか……なに?」
「あー、」

 千歳はときどき、全くしらない熊本の言葉を使う。同じ日本語なのに千歳の言いたい事が分からないときがたくさんあって、少しむず痒くなる。
 中学で初めて知り合って、おなじ高校に進学して、付き合って。 出会ってから三年くらいは経つ頃なのに、まだまだわたしの知らない千歳だらけだ。

「寄っかかっていい? ってこと」
「『ねんかかる』は『寄りかかる』やな、おぼえる」
「はは、まじめやねえ」
「あ、ちょっと、まだいいって言うてへんよ」
「へーきへーき」

 ずっしりと、重たい体がわたしにもたれかかる。別にここは千歳の部屋で、公衆の面前というわけではないし問題はないけれど、何年過ごそうがわたしの心がへーきではない。前もって準備というか、そういう時間がないといつか心臓発作で死んでしまいそうな気がする。
 千歳はいつもやることなすこと全部唐突で、飽きなくて、おもしろくて、でも何をしててもかっこいい。惚れた弱み、みたいなモンかもしれないけれど、テニスを見に行く時のわたしの目には千歳しか入らない。ほんますきやなあ、と忍足にからかい半分で笑われ たのは数え切れないほどである。

「おもい」
「はは、俺の愛」
「うそばっか」

 うそ、という単語を聞いた途端、 千歳がむっとしてわたしの頬にすりよる。 野良猫のような可愛いそれではなくて、相手は百九十センチ越えの大男なわけで、重いやら痛いやらくすぐったいやらで思わず身をよじった。

「わかった、わかったってば、ごめんなって」
「ほんなこつね?」
「ほんまやって、もう」
「お、『ほんなこつ』は覚えた?」
「覚えた覚えた」
「ならもうひとつ教えてやるばい」
「なに?」

 千歳はわたしの知らない言葉を使うし、いつもやることなすこと全部唐突だ。それはずっと変わってない。たぶんこれからも変わらない。わたしとは全然違って、そういう自由なところが、

「すき」
「……それは知ってる」

 わたしも。


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