あとをつける


最近、よく視線を感じる。背後に感じる強い視線に振り返れば、視線の持ち主はすぐに柱へと身を潜めた。……潜めたはいいが、柱から体がはみ出している。本人は隠れているつもりなのだから、と気づかない振りをして、視線を元に戻す。私の前を歩いているのはシンだ。いつもと同じ。
「どうした」
立ち止まった私に、シンが振り返って声をかけた。視線を一瞬私の背後へと向け、わずかに口元を緩ませる。背中に感じる視線はやはり強い。振り返りたくなるのを耐え、口を開いた。
「……あなたも気づいていますよね?」
シンは楽しそうな笑みを浮かべる。
「そりゃなあ」
「あの子、どうしたんでしょうか」
「どうしたんだろうなあ」
「最近おかしいですよね?」
「おかしいのか」
人の言葉を繰り返すばかりで、真剣に話を聞いてくれないシンをじっとりと見つめ返せば、にこにこした笑顔が出迎える。保護すべき子供でも見ているような笑顔だ。周りの目がなければ頭を撫でてきそうな、そんな気配すらあった。
「悩みがあって、相談したいのに言い出せない?」
「どうだろうなあ」
眉を顰める私と、にこにこと笑うシン。まったく見当のつかない私とは違い、理由に勘づいているらしかった。思い当たるのならばさっさと教えてくれたらいいのに、そんな拗ねた気持が湧き上がる。
「……教えてください」
「知りたいのか」
「当たり前です。……私に用があるようなんですけど、全然話しかけて来ないし、ずうっとああやって見てるだけなんですよ?だから、心配で」
「心配?」
「そうです。だって、最近食欲も落ちて、ため息も増えました。悩み事があるなら話して欲しい。私じゃ頼りないというのなら、あなただっているし、先輩や同僚もいるのですから安心して頼ってくれていいのに。……それとなくあなたから話を聞いてあげてくださいませんか」
「それはやぶさかではないのだがな、……ジャーファル」
「はい」
「何かあるまでは、ああやって好きなようにさせてやれ。……見ていたいんだよ、お前を」
「私なんか見たっておもしろくもないでしょうに」
おかしな子だ、そう思って再度背後を振り返る。またすぐに柱の影に身を隠した。でもやっぱり体がはみ出してる。下手なかくれんぼを見てると口の端に笑みが浮かんだ。理由を察しているシンは深刻に捉えてるようでもないし、心配ではあるが、しばらくは好きなようにさせておこう。あれで隠れているつもりだなんて可愛くって仕方ないから、とシンに視線を戻すと、先ほどの笑顔は苦笑に変わっていた。マスルールもかわいそうに、と呟いた言葉の真意はまったくわからなかった。


  
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