後編


「ジャーファル先輩のへそってかわいいですよね」

指を伸ばし、へこんだ部分に突っ込み、くりっと撫でる。

「ひゃ……っ」

その声が可愛くて、更にくりくりと指先で撫でた。

「そんなとこさわらないで!」
「……へそじゃなければさわっていいのか」

シン先輩の指が、お腹の辺りから胸の方へ動く。

「だめに決まっているでしょう!」
「じゃあ、どこならいい」
「全部だめです!」
「そんなこと言われると、全部さわりたくなるなぁ」

大きな手のひらが肌を撫でる。唇を首に押しつけながら、手のひらはお腹や脇腹を探った。その度にびくびくと震える。逃げ出すことも出来ず、蹂躙されるままだ。見ているだけでは詰まらないので、足を撫でることにする。指先で太ももをなぞり、少しだけスカートの中に滑り込ませてみる。さすがにシン先輩のようにがっつりと手を差し入れる勇気はなかった。

「……もう、好きにしてください」

散々撫で回され、抵抗を諦めたのか、ぐったりした様子で言葉を落とした。

「いいのか?」
「だって、やめてって言っても、やめてくれないんでしょう……」

弱々しく呟いて、鼻を啜る。

「ああ、やめないな」

迷いなく肯定し、頬に唇を押しつけた。お腹や、脇腹、脇下を撫で回していた手のひらが胸の方へ移動し、下着ごとささやかな膨らみを包み込み、やわやわと揉みしだく。ぎゅっと目を閉じ、唇を噛み締め、堪えている。白い肌は薄桃色に染まり、うっすらと汗が浮かんでいた。

「……かわいいなぁ」
「うるさい」

小ささをからかわれたと思ったのだろう、忌々しそうに呟く。

「俺は、たまらなく好きだが」

そう言い、下着を上にずらし、直接撫で回し始めた。日に焼けた指が白い乳房に食い込む。指を動かすたびに、乳房は形を変える。その様子をじっと見つめていると、シン先輩と目が合った。お前は、と問いかけるような視線に顔を伏せる。そのまま顔を下ろし、お腹に口付ける。びくっ、と体が跳ねた。舌先でへその回りを舐め回し、音を立てて口付ける。

「……なんなの、きみは」

呆れまじりの声が聞こえた。へそのまわりは唾液に塗れ、いやらしく光っている。それを満足げに見つめ、次に足の方へ視線を移した。スカートと黒いハイソックスの間の白い肌に手のひらを置く。すべすべした手触りが気持良くて、何度も何度も撫で擦る。さっきは勇気の出なかったスカートの中に思い切って滑り込ませると、体が強張った。ちらり、と視線を向けると、怯えた目とかち合う。物言いたげに開いた唇が開いては閉じる。何を言ったところで無駄だと思っているのか、諦めて、目を閉じた。

指先に布が触れる。足の付け根の沿うようにして指を移動させた。布の上から秘部をなぞる。湿っているのが分かる。そろそろと下着の中に指を滑り込ませる。粘液が指に纏わりついて、不思議な気持になった。散々嫌だと言ってるにもかかわらず、体は反応を示している。どの辺りで受け入れるのだろうと弄っていると、不意に指が埋まった。

「……ッ!」

きゅうっと指を締めつけられた。視線を上げ、この辺りが良いのだろうかと指を抜き差ししてみたり、中を探ってみたりする。

「あっ、あ、いや!」

潤んだ目が制止を求めた。白い肌が上気する様子や、まるっこく愛らしいへそ、すらりと伸びた足は確かに魅力的なのだが、なによりも欲を煽るのは目だ、と思った。指を抜き取り、代わりに下着に引っかけ、すこしずつずり下げていく。太ももの辺りまで下げると後は簡単だった。剥ぎ取った下着は床に放り、向き直る。前をくつろげた後、足の間に体を割り込ませ、起ち上がった性器を取り出す。先端は先走りでぬるぬるしていた。

「……先輩」

体を進めようとしたら、押し止められた。右肩に足が置かれている。見れば、必死に首を振るい、

「それはだめ……!」

と訴えた。だめ、出来ない、怖い、と言葉を続ける。

「でも」
「おねがい、……許して」

震える声が許しを乞う。足を上げたことで、スカートが大きく捲れ上がり、太ももが露になっている。ごくりと咽が鳴る。理性を引き千切るには十分な光景だ。それでもなんとか繋ぎ止め、視線を戻す。動きを止めたことで、すこし表情が和らぐ。

「好きにしていいと言ったのはおまえだろう」
「……っ!」

胸の先端を指先で捏ねくり回すようにしながら、シン先輩が耳元で囁く。身を捩らせるけれど、逃げることは出来ず、更にスカートが捲れる。肩に置かれていた足が落ちる。しばらくそうして楽しそうに弄んだ後、ジャーファルさんの肩を掴んで、俺の方へ押し寄せた。受け取って抱き寄せる。熱い息が首筋にかかり、背筋が震えた。

シン先輩は立ち上がり、机の引き出しを開け、なにやらごそごそしている。何かを手に持ち、坐ると、手を伸ばし、ジャーファルさんを引き戻した。その後、俺の方へ手を差し出す。手に握られているのはコンドームだ。

もしかしたらとっくの昔に酔いなんか醒めているんじゃないかと思ったのはその時だ。だからといって、この状況で止めるなんて不可能で、コンドームを受け取り、多少もたつきながら装着する。今更ながら心臓がどきどきしてきた。

両足を抱え、体を進めた。ジャーファルさんは、いやだ、とは言わなかった。諦めたように目を閉じ、俯いている。

「……あの」

なに、と顔を上げて、俺を見る。

「あの、俺、初めてで、うまく出来なかったら、すみません」
「……嘘」

拗ねた声で呟く。

「いや、本当に、初めてで」

頬が熱い。俺がいままで何人かの女の子と付き合ってきたことをジャーファルさんは知っている。それはとっかえひっかえと言われてもおかしくない人数で、それなのに経験がないなどと言っても、誰も信じてはくれないだろう。けれど、本当に初めてだ。そういう雰囲気になったことは何度もあるが、邪魔が入ったり、俺が怖じ気づいたり、相手が怖じ気づいたり、とことごとく機会がなかった。

「だから、初めてがジャーファル先輩で嬉しい、です」

しばらく俺の顔を見つめた後、視線を反らした。

「……わたしは、うれしくない」
「先輩、は」

そっぽを向いたままの横顔を見つめ、短く息を吐き出してから訊ねる。

「初めて、ですか」

多分そうだろうとは思うけれど、確認しておきたかった。

「そうだよ、悪い!?」

怒鳴られ、慌てる。

「初めてなら、俺より、シン先輩が先の方が……」
「この状況で、どっちが先だってかまわないよ!どうせ、どうせふたりとも、するんでしょう」

最後の方は消え入るような声だった。ぐす、と鼻を啜り、唇を突き出す。

「でも、痛いかも……」
「じゃあ、やめて」
「それは、あの、結構、ぎりぎりで」
「……じゃあ早く終わらせて」

今更ながら怖じ気づいて、迷い始める。俺は初めてがジャーファルさんで嬉しいけれど、初めてが俺なんかでいいのだろうか。ジャーファルさんは、好きな人はきみたちじゃない、と言ったけれど、その言葉は嘘で、本当はシン先輩が好きなんじゃなかろうか。そうだとしたら、せめて、こんな状況だとしても、初めてはシン先輩の方がいいんじゃないか。そんな考えでぐるぐるし始めた。

「シャルルカン」

シン先輩の声に顔を上げる。至って真面目な顔で口を開く。

「怖いのなら、俺が先にしよう。ただ、さっきから我慢しているからな。ジャーファルの体を気遣う暇はない。いくら痛いと言われようとも、やめてと言われてようとも、欲望のままに突き入れ、腰を掴んで揺さぶる。泣いてもやめない」

きっぱりと言い切った。ジャーファルさんの表情は強張り、青ざめている。

「……おまえの方がまだマシだろう」

笑い、頭をくしゃくしゃと撫でる。本当にそれでいいのだろうか。ジャーファルさんの方を見遣ると、やはり青ざめた表情のままで、おそるおそる口を開く。

「きみ、が」

いい、と震える声が囁いた。全身が熱くなる。迷いや怯えは一瞬で消え去り、残るのは情欲だけだった。どちらがマシか、そんな選択肢だ。それでも、俺を選んだ。俺がいい、とそう言った。

「もう一度」
「……きみが、いい」

たまらない気持になって唇を塞ぐ。先端が肉に埋まる。

「んんっ、……は、あっ……」

異物を受けつけまいとする肉の壁をすこしずつ、けれど確実に押し開いていく。ジャーファルさんの中はあたたかくて締めつけてくる。散々指で弄られたせいか、思っていたよりは抵抗が少ない。すこしずつ、すこしずつ、押し込め、中を抉る。ジャーファルさんは唇を噛み締め、必死に声を殺していた。なんて可愛い顔をするんだろう。

「先輩、ジャーファル先輩……っ」

手を伸ばし、頬を包み込む。唇を押しつけ、呼吸ごと奪う。

「ふ……っ、ぁあ、っ!」

深く突き入れられ、体を反らせるが、後ろ手で縛られている上、背中をシン先輩が支えているため逃げ道がない。ただ性器を飲む込むしかない。大部分を納めてから、動きを止める。きつく締めつけてくる肉の感触に頭がぼんやりとして、何も考えられない。出来る限り優しくと思っていたけれど、難しいことだった。たまらなく気持良い。

「……だい、じょうぶですか」

肩で息をしながら、問いかける。ジャーファルさんはただ頭を振るい、ぼろぼろと涙を零した。

「痛く、ないですか」

泣き止むのを待ち、呼吸が落ち着いてきたところで再度問いかける。擦れた声で、すこし、と答えた。

「ん……っ」

シン先輩の手が肌を撫でる。きゅっ、と襞が収縮し、締めつけた。見れば、シン先輩も苦しげに眉を寄せている。

「あー、動きますね」
「だめ……!」
「なんだ、ずっと銜えこんでいたいのか」

からかうような声に頬に朱が走った。そんなこと、と抗議を上げる唇を塞ぐ前に俺に目配せをする。

「ん、んんっ、……ッう」

性器を途中まで抜き、押し込む。何度も何度も腰を打ちつけ、ひたすら快感を貪る。達したが、精液が膣内に吐き出されることはない。深く息を吐き出し、性器を引き抜く。

「噛まれた」

笑いながら呟いたシン先輩の唇に血が滲んでいる。ジャーファルさんはぼんやりした目で、何を考えているのか分からなかった。大丈夫か、と頭を撫でるシン先輩に、頭を振るだけで何も言わない。無理矢理犯されたも同然なのだから仕方ないのだろう。

謝ろうにも言葉が浮かばない。シン先輩は、落ち着きなくそわそわし出した俺に笑みを向け、ジャーファルさんの腰をぐいっと引き寄せ、膝を立たせる。同時に、俺の方へジャーファルさんの上半身を押しつけた。

「ちゃんと支えていろ」
「――ああ……っ!」

スカートを捲り上げ、なんの前置きもなく挿入した。一度受け入れたとはいえ、慣れていないそこは性急な責めには堪えられないのだろう。すぐ耳元で、いやいやと泣きじゃくる声が響く。腰を打ちつける音と、性器が擦れ合い、粘膜が掻き混ぜられる音が聞こえてくる。

犯されている。そうとしか言いようがなかった。俺はどうすることも出来ず、震えるジャーファルさんの肩を抱きしめ、それから宥めるように頭を撫でる。

「や……っ、髪、さわらないで!」

叫ぶように言われ、慌てて手を除ける。シン先輩は、その言葉に動きを止め、目を細めた。

「抜いて、もう、……いやです」

シン先輩の指が伸びる。うなじをゆっくりと撫で上げ、髪の中に手を突っ込み、優しく撫でた。腕の中の体が震える。多分、首の辺り、それから髪を撫でられるのが弱いのだろう。

「……分かるか」

お前の中に全部入った、と髪を撫でながら囁く。その声は欲に塗れて、熱っぽい。俺は、その声に込められた欲を知っている。同じものを抱えている。だから、止めることは出来ない。

悪い、と言葉を落としたシン先輩は腰を動かし始め、ジャーファルさんが泣いて許しを求めてもやめることはなかった。どうしてだろう。悪い、という言葉はジャーファルさんだけでなく、俺にも向けられているような気がした。

「拭いてやれ」

真新しいタオルを受け取り、はい、と頷く。ジャーファルさんはもう泣いていなかった。頬に涙の跡がこびりついている。それを優しく拭き取る。

「……手」

擦れた声でぽつりと呟く。手はまだ縛られたままだ。背に腕を回し、きつく縛られたネクタイを解く。ネクタイは多少暴れても解けないように縛られており、そこに込められた感情にぞわりと体が震えた。

体中の汗や唾液を拭き取る。いつの間に付けたのか、首や肩の辺りに赤い跡が散らばっていた。一瞬躊躇いを覚えたものの、足の間も丁寧に拭き取った。タオルに滲んだのは赤い血だけで、精液はない。

「拭いたか?」
「……はい」

シン先輩はくしゃくしゃになったシャツや下着を手早く剥ぎ取り、大きめのシャツに着替えさせた。おそらくシン先輩のシャツだろう。身を清め、着替えさせても、ジャーファルさんはぼんやりしたままだ。

「あの」

おそるおそる声を掛けると、視線を向けた。

「……あなたたちなんてきらいです」

擦れた声でそれだけ言うと、のそのそと這うようにしてベッドに潜り込んだ。シーツを被って丸まる。きらいです、という言葉は胸に深く突き刺さった。

「ジャーファル、先輩」
「しばらくそのままにしておけ」

持ってきた水をテーブルの上に置き、丸まったままのジャーファルさんに手を掛ける。

「水を置いておく。気が向いたら飲め。俺たちはお前の部屋にいる。なにかあったらメールなりしろ」

そう言い、行くぞ、と目配せをする。部屋を出て行くシン先輩の背についていきながら、何度か振り返ったが、ジャーファルさんに動く気配はなかった。

部屋の外に出ると、夜風が頬を撫でた。ひんやりとして気持いい。ジャーファルさんの部屋と思われる扉の鍵穴に鍵を差し入れているシン先輩の背中に問いかける。

「勝手に入っていいんですか。その、女の子の部屋ですし」
「ああ、大丈夫だ。あと、女の子の部屋を期待するとがっかりするぞ」

躊躇いなくジャーファルさんの部屋に入っていく背に付いていき、言葉の意味を理解する。物が少ない。ぬいぐるみや、可愛らしい雑貨なんかは全くない。必要最低限の物しか存在しないような部屋だ。本の数は多かった。あまりきょろきょろと見回すのは失礼だろうと、窓から外を見る。真っ暗な景色が広がるばかりだ。家の灯りが闇の中にぽつぽつと灯っている。

「何か飲むか」
「……酒以外ならなんでも」
「飲もうにも置いてきた」

笑いながら、冷蔵庫の中から麦茶が入ったボトルを取り出した。ふたつのコップもテーブルに置く。ひんやりとした麦茶は体に染み入るようでおいしかった。

「……あの」
「あれは、一度懐に入れた人間にはとことん甘いからなぁ。俺が半殺しにされるだけで、お前は精々首を絞められる程度だろう」
「一生、口を聞いてくれないってことは、ないんですか」
「一週間ぐらいは、可能性があるな」

そのぐらいで済めばいい、と心から思った。考えれば考えるだけ、したことに対する罪悪感が募って、気持が沈む。やるんじゃなかった。止めればよかった。後から後から後悔が沸き出して、いますぐにでも土下座して謝りたくなる。

「気にするな、とは言えんが、あまり深刻に考えるな。考えるならば、明日、あいつの顔を見てからだろう」
「そういう、ものですか」
「ああ」

シン先輩の顔は穏やかだ。いつもの、気のいい優しくて尊敬出来る先輩だ。ずっと好意を抱いていた幼馴染みを犯した人とは思えない。俺は、どんな顔をしているんだろう。好きな先輩を犯して、初めてを奪って。後悔している癖に、初めてが自分だと思うと満たされた気持がある。そんな自分にまた嫌悪を抱く。

「……ジャーファル先輩の、好きな人って誰なんですかね」

初めては好きな人が良かっただろうなぁ、と思い、ぽつりと呟くと、シン先輩が軽く目を見開く。

「お前、気付いてないのか」
「えっ!?先輩は知ってるんですか!」
「…………、いや、知らない」
「ええっ、絶対知ってますよね?!だ、誰ですか」
「知ってどうする」
「それは、謝る……?」
「謝れても困るだろう」
「ですよね……、大体、謝るならジャーファル先輩にですよね」
「そうだな。分かったらもう寝ろ」

就寝時間には早かったが、疲れていたし、眠って、一時的にでも罪悪感から逃れたかった。だが、安眠することは出来なかった。気分が落ち込んでいたこともあるが、俺が怒られるという理由で、ジャーファルさんのベッドを割り当てられたせいだ。女の子らしい甘い匂いがする、なんてことはなかったけれど、いつもここで寝ていると思えばそうそう簡単に眠ることは出来なかった。おかげで、次の朝は、早寝したにも関わらず寝坊した。目覚めて部屋を見回すもシン先輩の姿はなかった。慌てて、部屋を飛び出し、シン先輩の部屋のドアを開ける。

「……先輩!」
「なに」

答えたのはシン先輩ではなく、ジャーファルさんだった。昨日の夜、着せられた大きめのシャツではない。シンプルなTシャツと、下はジャージだ。シン先輩がジャーファルさんの部屋から持ってきたのだろう。

「あ、えと、ごっ、ごめんなさい!」

その場に土下座して、床に頭を擦りつける。こんなことぐらいで許されるとは思わないが、せずにはいられなかった。罵倒されるだろうか。罵られるならいい。何も言われないよりずっといい。目を閉じて、祈るように言葉を待つ。

「……もう、いいです」

落ちてきた言葉は罵倒ではなかった。

「へ?」
「もう、いいです」

顔を上げれば、ジャーファルさんの視線とぶつかる。その表情から感情は読み取れない。強いて言うなら呆れているように思えた。

「さっき」

息を吐き出し、言葉を続ける。

「思う存分シンに当たり散らしてすっきりしましたから」
「でも」
「当の本人がいいって言ってるんですからいいんです。これ以上、昨日のことについて話したくありません」

もうしゃべらないという意志を伝えるように、ぎゅっと唇を閉じる。

「シン先輩は……」
「シンは洗面所です。思いきり頬を引っぱたきましたから」
「じゃあ、俺も、引っぱたいてください」
「どうして」
「……俺も、同じことしたから」
「引っぱたいてもいいけど、私の手が痛いよね?」
「…………」

どうすればいいのだろう。このまま、なんの咎めがないのは苦し過ぎる。自分が楽になるために罰が欲しいのだろうと思う。罰さえ与えられれば、傍にいても許されるなんて思ってはいないけれど、このままでは犯した罪の大きさに潰されてしまいそうだ。
ジャーファルさんはしばらく考えこんだ後、口を開いた。

「それじゃあ、きみは」
「はいっ」
「今後一ヶ月、私に触れないでください」
「……はい?」
「だって、好きな人に触れられないのはつらいでしょう?」

さらり、と言った。頬が赤くなる。好きだなんて言った覚えはない。

「…………シン先輩ですか?」
「それもあるけど、……昨日、初めてが私で嬉しいって、言うから。ああもう!昨日の話はしたくないって言ったのに!」

頬を赤くして、苛立たしげに言う。

「でも、そんなことでいいんですか?」
「そんなことって言うけど、きみ、以前からスキンシップ多いし、結構つらいと思うけど」

確かに、俺のノリなら許されると思って隙あらばべたべたと触っていた。ジャーファルさんは、土下座している俺の目の前にぺたんと坐り、真顔で言葉を続ける。

「もし触ったら期間を一週間延ばします」

ぐっ、と顔を近づける。誰かが背中を押してくれれば、キス出来そうな距離だ。残念ながら誰も押してくれない。

「ちなみに、私から触れる場合は免除します」

そう言い、にっこりと笑う。笑顔はすごく可愛いのに、背中に悪寒が走る。すごく嫌な予感がした。

「仕方ないですよね。私にひどいことしたんだし、罰が欲しいって言ったのはきみだし」
「……はい」

素直に頷く以外にどんな選択肢があったのか、誰か教えて欲しい。


補足するならば、洗面所から出て来たシン先輩は両方の頬が真っ赤に腫れ上がっていた。半殺しじゃなかったなぁ、と笑っている辺り、本当に凄い人だと思う。


:この後、一ヶ月生殺し期間が始まるよ!

  
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