2妄想ならば大丈夫です


「っふ……、や、……ぁあ!」

震える声が耳朶をくすぐる。銀色の頭が肩口に押し当てられ、いやいやと振るわれた。俺のスーツを掴む白く細い指は震え、縋りついてくる。始め忌々しげに寄せられていた眉は、いまや羞恥と恐怖で下がっていた。

またしても人波に押された結果、彼女と俺は向かい合って立っていた。彼女は俺に視線を向けたものの、知らん顔して、別の方向へ顔を背けた。痴漢してきた男に向ける笑顔はないのだろう。それはそうか、と残念に思いながら、両手で吊革を握りしめた。今回は絶対に触りません、と伝えるためだ。

この間、彼女のお尻を撫で回して突き出された俺は、その場で土下座して許しを乞うた。すみません出来心でしたもう二度としませんごめんなさい絶対に痴漢なんてしません、と必死で訴えた結果、彼女はため息ひとつ、約束ですよ、と言ってくれた。そういうことですので、と駅員さんに、ご迷惑をお掛けしました、と頭を下げた。慌てて俺も駅員さんに正座したまま頭を下げた。駅員さんも、被害者の方に感謝してくださいね、と苦笑混じり言ってくれた。

再度彼女に謝って、それから、感謝を伝えた。このご時世に会社を首になるのは避けたい。お礼に何か、と下心なしに口に出せば、彼女は眉を顰めた。これじゃあナンパだと気づいて、慌てて撤回する。その後に、何か身分を証明するものはありますかと言われ、免許を取り出して手渡した。車にはほとんど乗らないから、持っているだけのものだ。それから彼女は、電話番号と会社の住所も控えた。手慣れた様子で情報を控える彼女の様子に心臓がひやりとした。手慣れている。もう絶対痴漢しない。

実際俺はその日から痴漢なんかしてない。今まで通り、遠巻きに彼女をちらちらと見るだけだ。彼女も変わらず窓の外を眺め、邪魔にならないように鞄を引き寄せる。景色を眺める横顔は、やっぱり地味でつけ込みやすそうだ。気が強いだなんて誰も思わないだろう。そうこうしていたある日の出来事だった。

両手で吊り革を掴み、痴漢なんかしませんとさりげなくアピールする俺を、知らん顔をしてあらぬ方向を見ていた彼女の眉が顰められた。彼女の後ろには怪しげな男がぴったりと寄り添っている。不機嫌そうな彼女の表情から見るに、おそらく、痴漢だろう。俺の時もこんな顔をしていたのだろうか。一瞬でも振り返り、その表情を見せてくれたなら、絶対に痴漢する手を引っ込めたのに。苛立ちも露わで、いまにも舌打ちしそうだ。だが、短く息を詰めると、唇を噛み締めて耐える姿勢を見せた。顔には後で絶対に突き出すと書いてある。俺は痴漢に語りかける。やめるなら今のうちだ!土下座したら許してもらえるけれど、年下の女の子に土下座するのは、結構、心が折れるぞ!哀れな痴漢の行く末を脳裏に浮かべながら、彼女の表情を窺う。深い眉間の皺は嫌悪の深さを示していた。だいぶお怒りのようだ。

しばらくはそんな様子だったが、やがて体を大きく跳ねさせた。驚いたように丸い目を見開き、次に身を捩った。痴漢の手を振り払おうとしているようだった。これは、多分、そうだと思うけど、お尻を撫でるだけじゃなくて、下着の中に手が入り込んだのではなかろうか。不機嫌一色だった彼女の表情に、焦りが浮かぶ。痴漢と思われる男はぴったりと彼女に寄り添い、離れる気配はない。しばらく痴漢との静かな交戦を繰り返していたが、やがて短く息を吸い込み、次に俯いた。俯いた彼女の顔は真っ赤で、悔しさと恥ずかしさで目が潤んでいた。どこをいじられているのか、頭の中で妄想が膨らむ。下着の中へ忍び込んだ痴漢の指が、割れ目を撫でる。一本の指がぴたりと閉じたスジに沿って動く。指が入り込んでくる。どうにかして引きはがそうと身をくねらせるが、指は離れることなく、更に奥へ入り込む。執拗にいじってくる指に翻弄され、いつの間にかぬるりとした粘液が分泌されていることに気づき、首まで赤く染める。心の中で必死に違う、違うと繰り返すも、指は粘液を掬い取り、かすかな水音を認知させる。

そんなことを妄想しながら彼女をじっと見つめた。痴漢の方へ意識が向いているのか、こちらへ顔を向けることはなかった。頬を赤くしながら、涙目で体を揺らす彼女は、まさしく妄想していた通りの、強く押されれば抵抗できない、そんな子に見えた。いくら気が強くとも、性器に指を捩じ込まれて、欲望のままにいじられるのは恥ずかしいし、怖いのだろう。俺もこのくらいしていれば良かったのか。でも、この間は黒タイツだったからなあ。そんなことを考えた後、ふと思う。今日も彼女は黒タイツだったはず。どうやって下着の中へ指を侵入させることに成功したのだろう。もしかしたら以前から彼女を付け狙っていて、この時のために鋏を用意し、それで黒タイツへ切れ込みを入れたのかもしれない。なんて卑劣な男なんだ。脳裏で裂かれた黒タイツと、下着、それから白くてやわらかいお尻を思い浮かべた。すごく見たい。スカートの中で何が行われているのか、すごく見たい。

凝視していたところで透視できる訳もないが、じっと見つめる。指が離れたのか、彼女がほっとした表情を浮かべた。痴漢は背後にいて、彼女からは何をしているか見えない。俺は心の中で彼女に訴える。その痴漢、性器を取り出そうとしているようだぞ、と。股間の辺りでこそこそ手を動かしていた痴漢は、またしても彼女のスカートの中へ手を突っ込み、ぐいと太ももを引き寄せた。いきなり引き寄せられて、バランスを崩した彼女は俺の方へよろめく。支えるようにして受け止めると、そこでようやく俺の顔を見た。意思の強かった視線はどこにもなく、助けを求めるようにじっと見つめてくる。

唇が震えて、何か訴える前に表情が強張った。下着の横から、勃起した性器が入り込み、秘裂へと擦りつけられているのかもしれない。や、いや、とか細い、俺にしか聞き取れないくらいの声が落ちた。助けて、と訴えられて、全身が熱くなる。彼女を守れるのは俺しかいない、華奢な体を両腕で抱きしめた、大丈夫だよと慰めるように背を撫でさすると、何故か逃げようともがく。更にきつく抱きしめる。痴漢はといえば、彼女の腰をしっかりと掴み、固定していた。腕の中の体がびくっと跳ねて、硬直する。いや、やめて、離して、と切羽詰まった声が必死に訴える。っあ、と短く息を飲み込んだ彼女は震え、ぎゅうと俺のスーツを強く掴んだ。皺になるくらい強い力だがかまわない。痴漢の腰は、彼女のお尻にぴったりとくっついている。はあっはあっと吐き出す息が荒い。腰を引くと、くちゅ、と水音が響いた。電車の揺れに合わせ、痴漢の腰がお尻にくっつく、離れる、くっつく。単調な動きを繰り返されるたびに、彼女の体がびくびくと揺れる。やだ、抜いて、と泣き出しそうな彼女を慰めるように頭を撫でた。想像していた通り、さらさらした心地よい手触りだ。スカートの中はどうなっているのか、知りたくてたまらなくなる。無理矢理に性器を捩じ込まれてしまったのだろうか。きつきつと締め付ける膣の感触を痴漢の肉棒は味わっているのか。おそらく処女だろうことを考えるとあまりにもかわいそうだ。男を知らぬ体を、卑劣な痴漢などに押し開かれてどんなにつらいだろう。痴漢はまだ彼女の背後に張り付いていて、腰を揺らしている。やがて、体全体をぶるっと震わせた後ゆっくりと腰を引いた。無理矢理に性器を捩じ込んだだけでなく、中に射精したのだろう。彼女は俺にしがみついたまま、ちいさく泣き始めた。慰めるように頭を撫で続けることしかできない。痴漢は満足したように人波に紛れて消えてしまった。残されたのは、痴漢に中出しされた彼女と、彼女を守れなかった俺だけだ。俺がもっとしっかりしていれば、気の強い彼女が、卑劣な痴漢などに、お尻や性器をいじられ、肉棒を捩じ込まれて、さらには射精などされなかったに違いない。そんな後悔をしながら、考える。さて、俺は一体どうするべきか。

そこで一端、現実に戻る。傷ついた彼女を休ませるためにどこかに連れ込、じゃなくて、どこか休める場所を探すか。それともスカートの中へ手を忍ばせ、精液を掻き出してあげるべきか。孕んでしまうのはかわいそうだから精液を掻き出してあげるのがいいような気がする。掻き出したところで絶対に孕まない状態にするのは不可能だろうが、何もしないよりは遥かにマシだ。うん、そうしよう。

電車の隅に移動し、すこしだけ体を離す。頬に零れる涙を指で拭い取った後、スカートへ手を伸ばす。忍び込ませた指で、まずは下着の上から撫でる。ふにっとやわらかい感触に頬が緩んだ。下着の中へ指を滑り込ませると、ぬちゃ、とした感触が伝わった。精液だろうか、それとも彼女の体液だろうか。後者であることを願いながら、割れ目へと二本の指を押し込み、開く。っや、と身を捩る彼女を安心させるために、開いた腕で抱き寄せる。中を捏ねくり回せば、どろりとした体液が指を伝う。視線を向けてみれば、太ももから膝の辺りに液体が伝っていた。誰かに見られたら困るな、と庇うようにして他の乗客から彼女の姿を隠す。彼女の吐き出す息が首をくすぐる。よくよく考えれば、精液を掻き出すよりは、垂れ落ちないようにしてあげるべきではなかろうか。足に精液が伝っている様子を誰かに見られたら立ち直れないほどのダメージを受けるに違いない。蓋をするには指では不足だろう。指よりもっと太く、しっかりと穴を塞ぐものが必要だ。チャックを下げ、性器を取り出すと、彼女の右足を持ち上げた。やだ、もうしないで、と不安がる彼女を宥め、抱き締めていた方の手をスカートの中へ潜らせる。下着をずらし、先端を擦り付け、精液が零れ落ちる穴を見つけて塞ぐ。万が一のことを考え、根本まで埋めて、絶対に零れ出さないようにしてあげると、ふるっと体を震わせた。彼女の体が震えると、中に収めた性器がきゅうっと締め付けられたまらなかった。先ほどの痴漢がしていたように、電車の揺れに合わせて、華奢な体を揺らす。かすかに響く水音が情欲をかき立てる。たまらず右手で胸を揉みしだく。ボタンを外し、直接小ぶりな乳房を揉み、乳首を摘む。いや、っやあ、と嫌がる彼女の体が浮くほどに激しく突き上げ、揺さぶる。泣きじゃくる声と、きゅんきゅん締め付けてくる膣に煽られ、中へと精子を注ぎ込む。

そこで息を吐き出し、精液を吐き出したティッシュをゴミ箱へと投げ捨てた。土下座して許されたのは本当のことで、知らぬ顔をされているのも本当で、痴漢をしていないのも本当のことだ。痴漢はしないと言ったが、妄想はしないとは言ってないからセーフだ。多分。ただ、妄想の内容はエスカレートしている。今までは、痴漢されて恥ずかしがる彼女を可愛いなあと体中撫で回すくらいで、うっかり興奮しちゃった彼女にどこかで休みませんかと誘われ、初めてだから優しくしてくださいと頼まれていちゃいちゃするという比較的軽いものだった。それが今では、電車の中で痴漢された彼女を無理矢理犯すまでに至った。気の強い彼女が、卑劣な痴漢により、悲痛な目に合い、羞恥と屈辱に泣く姿はなんかもうえろい。えろいに違いない。だから、こんな妄想をしてしまうのも仕方ないことだ。罪悪感はある。痴漢を許してくれた彼女に対しての仕打ちじゃないよな、と思いはするのだが、その罪悪感がまた良いスパイスになるのだ。目を閉じて、また性器へと手を伸ばす。

ここで引き抜いては、蓋の意味がない。もう、許して、とちいさく泣くしおらしい姿にまたむくむくと性器が大きくなる。中で大きくなる性器に気づいたのだろう、逃げようと身を捩るが、もちろん逃がすつもりはない。ゆるゆると腰を揺らし、打ち付け、唇を塞いだ。右手をスカートの中へ忍び込ませ、お尻を揉みしだく。固さの残るやわらかいお尻の感触が手のひらに伝わった。他の部分は全て妄想だが、お尻だけは違う。まごう事なく彼女のお尻の感触だ。思い出しながら、妄想を進める。鷲掴みにして持ち上げ、落とすと同時に、突き上げて快楽を貪った。二度目の射精の後、ゆっくりと性器を引き抜けば、精液が太ももを流れ落ちた。ハンカチで拭った後、ぐったりした体を支えて抱き寄せる。ここで放り出す男じゃないんだよ、俺は!どこか体を清められるところへ連れていって、着替えを用意して、落ち着かせた後にきちんと送り届ける予定だ。妄想だから、決して睨みつけられたり、怒られたり、ゴミを見るような目で見られたり、また突き出されたりはしない。何せただの妄想。全ては俺の頭の中だけで起こった出来事。

実際、あれ以来、彼女は痴漢に合っていない。何よりだ。何より、の筈だ。痴漢に合えばまた突き出すのだろう。きつい眼差しで睨みつけて、怒りの滲む笑顔で、痴漢の腕を掴んで。妄想の中では、ひどいことばかりしているけれど、それとは別に考えることがある。もう一度、睨みつけられたい、と。その気持は、表情の移り変わりを見たいという思いから来ている。大人しそうな顔立ちが、一瞬で険しくなり、また次は呆れたように息を吐く。その移り変わりのさまを。それから考える。彼女が傍にいたら日常が楽しくなるのではないか。おそらく、俺が知らないだけで、もっとたくさんの違う表情があるのだろう。それを、見てみたい。願いは到底叶いそうにないけれど。


:足コキされる妄想もしている

  
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