ぐるぐるまわる(学パロ)


/シン→ジャ
/シン様が黒ルフ気味
/モブによるジャーファルおねえさん輪姦計画に口突っ込むシン様の話
/性描写はありません



嫌な噂は耳に入ってきていた。理由はいずれもくだらないことだった。好きな女が俺に惚れたせいで振られただの、付き合っていた女を俺が寝取っただの、そんなことばかりだ。女絡みの恨みを買うのはそうめずらしいことではない。どれもこれも俺自身には非のない理由ばかりだ。

男のいる女は避けるようにしているし、誰とも付き合っていない女が俺を好きになったとしても、それは俺には止められない。己の魅力がないのを棚に上げ、逆恨みするなどお門違いもいいところだ。

幼なじみであるジャーファルに、そんな話をしたのは、つい昨晩のことだった。それで、もしかしたら、お前の方へ何かあるかもしれないから気をつけてくれ、と言葉を続けた。ジャーファルは呆れた顔で「気をつけます」と言った後、ため息を吐き出した。

「言動に気をつけた方が良いのではないですか?思わせぶりなことばかり言って、相手の女性が浮かれてしまうのはあなたにも原因があるように思えるのですが」
「失礼な。俺は普通に接している。思わせぶりな態度など取ったことはない」
「尚更質が悪いじゃないですか。……もうすこしご自分の魅力を自覚して、努めてストイックに対応してはいかがですか?」
「ジャーファル」
「はい」
「お前の思う、俺の魅力とはなんだろう。後学のために詳しく話を聞かせてはもらえないか」
「え、ええ、それはかまいませんが、改めて言うとなると気恥ずかしいですね……」

そうして上手いこと、ジャーファルが俺の顔を整っている男前だと思っていることとか、何事もおいても機転が利き、心は広く優しくおおらかで、前向きであり、行動的でそれに伴う実力も備えているだとか、そういう言葉をたっぷりと聞かせてもらった。そんなに魅力があるなら、いい加減惚れろよと思わないでもなかったが。

閑話休題。立ち去った背中を物陰から見つめ、男子生徒が立っていた場所へと移動する。目の前にあるのはジャーファルの靴箱だった。中を見てみれば、靴がない。靴の替わりに一枚の紙が置いてある。開いてみれば、体育倉庫にひとりで来い、と書いてあった。予想通りの言葉を確認し、紙を靴箱の中へと戻す。ジャーファルは今頃図書館で後輩であるマスルールと、勉強を終わらせ、他愛のない話をしていることだろう。それほど時間はないな、と身を翻した。

あの手紙を見たジャーファルはどんな行動をするだろうか。眉間に皺を寄せて不機嫌になるに違いない。上履きのまま、苛立ちも露わに体育倉庫へと向かう。察しは良い方だ。行ったところでろくでもないことに巻き込まれるのは理解しているはず。扉を開け、中には入らず、靴を返してください、と声を荒げる。もちろんおとなしく返してくれるはずもない。ジャーファルの目には怒りの色が滾り、いまにも舌打ちなりしそうな嫌悪に満ちた顔をする。おとなしい地味な女、と思っていたら奴らは驚くだろう。それでも女ごときに負けてはいけない、と考え、にやついた顔で靴を取り出し、返して欲しければ中に入ってこい、と下卑た声を出す。中には複数人の男が隠れている。中に入れば、すぐさま扉が閉まり、ジャーファルの細い体を押さえ込もうと男たちが飛びつく。……そんなことで上手くいく訳がない。抱きついた男は鳩尾に肘を叩き込まれ、手首を掴んだ男は引き寄せられ頭突きを喰らう。口を押さえようとすれば手のひらに噛みつくだろうし、迂闊に近づこうとすれば金的を狙うだろう。

自分の身ぐらい守れるようになれ、と護身術を教えたのは俺だった。こういうことを想定していた訳ではないが、おそらくは親戚の家をたらい回しにされていた頃、暴力によって傷ついた心をすこしでも支えたかった。強くなれば自分自身を守れる。理不尽な暴力に怯え、自分の心を殺さずに済む。

随分とよく笑い、よく怒るようになった。今では考えられない、生気を失った虚ろな瞳をしていた幼いジャーファルを脳裏に浮かべると、胸が痛み、同時に明るく笑えるようになったことが嬉しくて笑みが浮かんだ。喜ばしいことだ。心から良かったと思える。そんなことを考えていると、体育倉庫にたどり着いた。息を殺し、中の様子に耳をそばだてると微かに声が聞こえた。想像していた通り、複数人いるようだった。

小声で話しているせいで会話の内容は聞き取れない。聞き取れたところで俺の行動に変わりはない。気持を入れ替えるために短く息を吐き出し、勢いよく扉を開ける。中にいた男たちが一斉に扉の方へ視線を寄越し、俺の姿を認めた瞬間、一様に目を見開いた。

「な、なんでお前が」

リーダー格と思われる男が口を開く。同じクラスの生徒ではない。素行が悪いことで名を聞く男だった。驚きから一転、敵意を込めて睨みつけてくる。釣られるように他の男たちも立ち上がり、構える。男は五人いた。どれも良くない噂ばかりの生徒だ。俺は笑って、「落ち着け」と敵意がないことを示すように両手のひらを広げてみせる。怪訝そうに眉根が寄った。不審か戸惑いか、男たちは立ち竦んでいる。いきなり殴りかかってくることはないと判断して、後ろ手で扉を閉めた。


扉を閉めると、外気から遮断され、倉庫内は薄暗くなる。

「ジャーファルに用があるのだろう?」

問いかけると、互いに視線を交わし、どう答えるべきか思案しているようだった。

「お前たちが考えそうなことぐらいわかっている。……本当にくだらないな。好きになった女のひとりぐらい自力で振り向かせれば良いものを。それに俺はなにもしていない。あちらが勝手に惚れただけだ。それを逆恨みとは随分と情けないと思わないか」

空気が張りつめる。戸惑いに支配されていた男にまた敵意が浮かんだ。いきなり殴りかかってこないのは、ひとりでは俺に勝てないということを理解しているからだ。訂正、例え五人であっても勝てないと理解している。だから、幼なじみであるジャーファルを狙うのだ。俺よりは弱くて勝てる算段のある女を狙って、杜撰な計画を立てた。

「……それで、俺の幼なじみを輪姦しようと考えるなど、まったく下衆の考えそうなことだ」

男が舌打ちし、邪魔しに来たのかよ、と低い声で問う。拳を握りしめている。せめて一矢報いようと考える訳だ。身の程も知らずに。

「いいや」

あっさり答えてやると、今度は「は?」と間抜けな声を出した。

「何故、邪魔をする必要があるんだ?あいつは負けん気が強いから、のこのこ来るだろう。もちろん警戒はしている。だから、扉を開けたとしても迂闊に中には入って来ない。……そうだな、靴だけじゃ駄目だ。俺の携帯電話を貸してやろう。身を守る術をいくつか知っているとはいえ、男数人に押さえ込まれてはどうしようもないことぐらいあいつだって理解している。だから、分が悪いと知れば、靴なぞさっさと諦めるだろう。そこでお前がこれを取り出す訳だ」

ポケットから取り出した携帯電話を、男の手に握り込めさせる。男の顔は引きつり、不気味な存在を見るような目で俺を見ている。失礼な男だ。

「ジャーファルは俺のことなるとすぐに頭に血が上る。後先が考えられなくなる。まるで人を殺しそうな目で睨みつけながら、倉庫の中に踏み込んでくるだろう。そこで、扉のそばで身を隠してた、……そうだな、お前でいい」

と、髪の短い男を指さす。指さされた男はびくりと体を跳ねさせた。

「扉の近くで息を潜めていろ。ジャーファルが中に入ってきたらすぐに扉を閉め、鍵を掛けろ。それから、反対側にも誰か隠れていろ。扉を閉めれば、扉を閉めた奴へと視線を送る。それを確認したと同時に力任せに抱きつけ。……お前に任せよう」

振り返り、立っていた体の大きい男へ指示を出す。

「暴れるだろうから、すぐにお前らも押さえつけろ。多少引っかかれ、蹴られはするだろうが、押さえつけていればそれほどダメージは喰らわんだろう。出来れば、最初に手首を縛った方がいいな。……ネクタイぐらいしろ」

男たちは誰ひとりネクタイをしていない。ため息を吐き出し、首もとからネクタイを解くと、体の大きい男へと投げる。ネクタイは宙を舞い、地面へと落ちた。肩を竦め、落ちたネクタイを拾い上げると男のシャツのポケットへと捩じ込んだ。

「あとは好きなようにすればいい。抵抗は激しいだろうが、五人もいればなんとかなるだろう?」

頑張れよ、と硬直したままの男の肩を叩く。

「……頭、おかしいんじゃねぇの……」

絞り出すような声が落ちた。

「何を言うんだ。お前たちが計画したことだろうが。それを手伝ってやろうというのだ。親切だろう?」
「幼なじみ、だろ……」
「そうだ。お前たちが知っているかどうかは知らんが、俺にとっては可愛くてたまらない、大切な幼なじみなんだ」
「じゃあ、なんで」
「なんでってそりゃあ、確かに、あいつの処女を俺以外の誰かが奪うのだとしたら腸が煮えくり返るほどの嫉妬を覚えるが、本当に欲しいのは心だからな。……輪姦されたジャーファルは傷つくだろうな。五人掛かりで犯され、ぼろぼろになったまま泣いて、身動きも出来ず身を竦める。そこで俺が現れる訳だ!俺の声を聞き、俺の姿を認めたジャーファルは安堵し、それからひどい姿をした自分を知られたくないと、俺が近づくことを拒絶する。だが、傷つき、泣くジャーファルをそのままにしておける訳がない。傍に寄り、抱き寄せ、慰めの言葉を優しく掛けながら、頭を撫でてやる。気が済むまで泣かせてやったら、着ていた上着を掛けてやって、それから家まで帰る。おそらくその日はひとりで眠ることなんか出来ないから、一晩中寄り添ってやるし、悪夢に魘されるならば優しく大丈夫だと繰り返し、安堵させてやる。そんな日々が続くうちに、ジャーファルは俺が傍にいないと不安になる。ずっと傍にいなければまた嫌なことが起こるのではないと怯えるようになる。俺は希望通りずっと傍にいてやり、不安を癒すように慰める。そうこうしているうちに、俺を好きだと思うようになる。……いや、恋愛感情を抱かずともいい。俺がいなければ生きていけないとそう思わせることが出来ればそれだけで十分だ」

考えるだけで心に喜びが満ちる。

「だから、お前たちは考えられる限りの苦痛をジャーファルに与えてやって欲しい。泣いて縋り、許しを乞うても許さず、手酷く犯して、写真も撮れ。何かあればすぐにバラまくと脅し、精神的にも屈服させろ」

もちろん撮ったものは回収する。

「ゴムは、……妊娠すると思わせた方が効果的かな。どう思う?」

問いかけると、すぐさま視線を反らした。人の話はしっかりと目を見て聞けと教わらなかったのだろうか。

「もうすぐジャーファルが来る。俺は外にいるから、終わったら気づかれないように声を掛けてくれ」

再度励ますように男の肩を叩き、窓の鍵を開けて、外へと出た。窓の近くに腰を下ろし、中の様子に気を配る。しばらくすると扉の開く音が聞こえた。ジャーファルが刺々しい声で「靴を返せ」と言い放つ。

男たちはどうするだろうか。半分は理解していて、もう半分は男たちの気概に期待も掛けている。数分経っても中から物音はしなかった。息を吐き出し、窓を開けた。男たちは変わらず同じ立ち位置で突っ立っていた。まったくもって役に立たない。大きくため息を吐き出し、手を差し出す。

「貸したものを返してくれ」

折角貸してやったのに……、そう呟きながら、ネクタイを締めて携帯電話をポケットへと戻しかけ、留まる。

「そうだ、お前たちの番号を教えてくれないか。今度はきちんと役目を果たすだろう?俺としてはいつでもいいんだが、ベストなタイミングでジャーファルの元へ駆けつける為に連絡が取れると助かる。……いいだろう?」

目を細め、射抜くように見つめてやると、どこか怯えた色を覗かせながら携帯電話を取り出した。やや無理矢理に奪い取り、手早く番号を登録する。他の男たちの番号も同じように手に入れた。

「じゃあ、俺ももう帰ろう。……次の機会を楽しみにしているよ」

声を落として呟き、体育倉庫から外に出た。今度は扉からだ。埃っぽい空気から解放され、思い切り空気を吸い込んだ。外はもう薄暗い。取りに行った自転車を押しながら校門へ行くと、ジャーファルが待っていた。俺を見つけると、小走りで寄ってくる。

「何してたんですか?」
「いいや、何も。お前は、先に帰らなかったのか」
「ええ。あなたの自転車が残ってましたから」
「マスルールは?今日も勉強を教えていたんだろう」
「先に帰りました。今日はモルジアナと約束があるらしくって」

何するのって聞いたら、強くなる特訓って言うんです、おかしいでしょう?と楽しそうに笑っている。その笑顔を見ていると、こちらまで笑みが浮かんだ。

「モルジアナは可愛いからなあ。どこでどんな虫が付くかわからん。強い方がマスルールも安心だろう」
「そうですね、強くて困ることはありませんから。……ねえ、シン」
「なんだ」
「あなた、何かしました?」
「何かってなんだ」
「何かはわからないのですが、また私を助けてくださったのではないか、と……。実は、先ほど靴を盗まれて、返してもらうために体育倉庫まで行ったのですが」
「のこのこ行ったのか、不用心な奴め」
「……だって腹が立つんですもん。おとなしく引き下がるなんて私には出来ません。それで、行ったはいいのですが、相手の様子がおかしくて。呼び出した癖に何も言わず、すんなり靴を返してきました。おかしいですよね?」
「そりゃ、理由なんて簡単だ」

見上げてくるジャーファルの丸い目を見つめながら、真面目な顔を作る。

「お前が怖かったんだろう」

怒ったお前には角が生えている、と言ってやれば、眉間に皺を寄せて睨んできた。

「失礼な。大体、私が怒るのは全部あなたが悪いんじゃないですか。学生の癖に飲酒しようとするし、服は脱ぎ散らかすし、誰彼構わずたらし込むし、それから、他にもいっぱいあります」
「それは、悪い。謝ろう」
「…………」

ジャーファルは怒った顔をやめて、俺を見つめている。

「いえ、いいんです。私、あなたにいっぱい助けられてるから。……多分、私が知らないところでも」

いつもありがとうございます、そう呟いてジャーファルはちいさく笑う。胸が締めつけられ、苦しさを覚えた。嬉しいと思う。同時にどうしてそこまで気づく癖に、俺の気持には全く気づかないのだろう、そう思ってしまう。どんな顔で笑えばいいのかわからない俺の様子には気づかず、ジャーファルは前を歩き出す。どうやらすこし照れているらしかった。

前を歩く背中を見ながら、俺は考える。他の男に襲われたとしたら、ジャーファルは抵抗し、持てる力で相手を攻撃し、痛手を負わせるだろう。……ならば、俺が相手だったらどうするだろうか、と。前を歩くジャーファルの肩は華奢で、押さえ込むのは容易いことと思えた。


:片思い拗らせた系シン様です。

  
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