幼なじみ(学パロ)


「そこに坐ってください」

指し示されたのはカーペットの敷いてある床だ。そこに正座の形に坐れば、同じように正座で目の前に落ち着く。真剣な表情で見つめてくるが、愛の告白などではなさそうだ。

「最近、学校で噂が流れているのですが、知っていますか」
「いいや、知らない」

嘘だ。おそらくはあの噂だろうなぁ、と思いながらも顔には出さない。深くため息をついて、実は、と切り出す。

「あなたと私が恋人である、と」

困り切った顔になり、肩を落とした。傷付くぞ、と言いたいが気持を隠している以上、そんなことは言えない。

「どうにかして噂の出所を確かめたいのですが上手く行かなくて」
「確かめてどうする」
「そりゃもちろん撤回させます」

ううん、と唸った後、難しいだろう、と言葉を絞り出すと、眉を吊り上げた。

「でも、あなただって嫌でしょう?」

私みたいな地味な女と噂になるの、続けられた言葉に曖昧に返事をする。否定も肯定も難しい。いっそのこと、いまこの瞬間に気持を打ち明ければいいのか。幸いにもふたりきりで邪魔は入らない。しかし、平然と自分の部屋に招き入れ、ふたりきりだというのに一切の緊張がないことを思えば、どう考えたって異性として意識していない。自分を地味だといい、魅力がないのだと思っているが故に無防備なのかもしれないが。

「あなたがお付き合いしている方にも失礼でしょうし」

飛び出してきた言葉に、虚を突かれる。お付き合いしている方などいない。

「なんの話だ」
「……この前、一緒に帰っていた子とお付き合いしているのでは?」
「いいや」

長い茶色の髪の少しおっとりした子のことだろうか。唇がやわらそうで、胸も大きかった。確かに魅力的ではあったが、あれはただ買い物に付き合っただけの話だ。何もない。

「じゃあ、先週の日曜日にデートしてた子は」

黒髪の強気な顔立ちの子のことだろう。芯の強さを窺わせる目と、整った顔立ちで、すらりと伸びた足が魅力的だった。しかし、あの子もあの子で出掛けるのに付き合っただけの話でデートでもなんでもなく、それに他にもあの子の友達とその彼氏が一緒だった。

「昨日、一緒にご飯食べていた子は?」
「誘われたから一緒に食べただけだが……」

昨日は緩くウェーブのかかった髪を二つ結びにした、少し幼い顔立ちのクラスメイトと一緒に昼食を食べた。弁当を作り過ぎたそうだ。もちろん目の前の幼馴染みが作ってくれた弁当も残さず食べた。

「呆れた」

正直に答えれば、ぽつり、と言葉を落とした。

「なにがだ」
「よく刺されませんね。それがあなたの人徳ということなのでしょうが、それにしたって、呆れた」
「買い物に付き合い、一緒に帰り、飯を食っただけで何故刺される」
「だって、その子たちあなたのことが好きなんでしょう。それなのにとっかえひっかえ」
「人聞きの悪い。別に告白なぞされとらんし、それに答えたこともない。友達としての付き合いをしただけだろう」
「……あなたがそのつもりでもその子たちはそう思わないかもしれないし、期待ばかり持たせるなんてひどい。大体、そのせいでだらしない男だと噂されていますよ」

だから控えなさい、と呆れたように吐き出す。人の気も知らず呆れた呆れたと繰り返す幼馴染みに、こちらの方がお前の鈍感さに呆れているところだ、と言い返してやりたい気持を押し殺し、口を開く。

「お前はくだらないことを気にする。噂などなんだ。どうだっていい話だろう」
「よくありません。最低な男だって言われているようなものなんですよ?そりゃあ、あなたはモテるし、僻み混じりに流されたのだとしても、悪く言われるのは腹立たしい」

唇を尖らせてそんなことを言うものだから、危うく抱きしめるところだった。

「それに今回の、私との噂で、私だって迷惑しているんです」

迷惑、という言葉がずしんとのしかかる。そうか、迷惑か。

「クラスメイトが、女をとっかえひっかえしているような人と付き合うのはやめた方がいいって」
「……誰がそんなことを」
「誰ってそれは言いませんけど、とにかく誘われても断るか、誰か特定の相手を見つけて真面目に付き合うか、どうにかしてください」
「……つきあう……」

じっと目の前の幼馴染みを見つめる。急に黙り込んだものだから、不思議に思っているのだろう。ぱちぱちと瞬きをして、首を傾げている。

本人も言うとおり地味だ。ぱっちりと大きな瞳とは言えないし、唇はぷっくりと艶やかと表現することは出来ない。鼻だって低い。そばかすだってある。胸だってそう大きくないし、尻の肉付きも薄い。それでも、だ。それでも可愛くてたまらないのだから、どうしようもない。

せめてこちらを少しでも異性として意識していてくれるならば、アプローチの仕様もあるというものだが、そんなことは一切ない。好きだと言おうものなら、すぐさま幼馴染みとしてだとか、家族のように思っているからだとか、勝手に変換して「私も好きですよ」などと言うに違いない。どれだけ意識していないのかといえば、勝手に人の部屋に入った挙げ句、待ち疲れたのか人のベッドですやすやと寝息を立てているぐらいだ。あの時の俺は本当によく頑張った。俺でなければ襲われていたかもしれないというのに、目を擦りながら「遅いです」と呟き、その後ふにゃりと笑うものだから、忘れ物をしたと慌てて部屋を飛び出した。その夜は、悶々として眠れるものではなかった。

ため息が零れる。いまだって個室にふたりきりだというのに、警戒心の欠片もない。

「好きな人、いないんですか」
「あー……」

いるようないないような、と呟けば、なんですかそれ、と肩を竦めた。

「しばらくは一緒に登校するの控えた方がいいですよね」
「いや、それは、噂を意識して、そんな行動を取る方が余計な詮索をされるだろう」

なにもせずに噂が消えるのを待つのが一番だ、と言ってやれば、腑に落ちない風ではあったが頷いた。そうは言ったが、噂が消えるのは難しいように思う。そもそも噂が立ったのは俺に原因があった。仲間内だけだが、幼馴染みがどんなに愛らしいか、俺のことを気遣ってくれるか、その他いろいろ、ほぼ毎日のように熱く語っているせいだろうから。


:現パロだろうがなんだろうが、ジャーファル自慢はいつだってするよ!

  
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