あまいにおい


/14×19
/おっぱい弄りのみ
/シン様のジャーファルさんへのセクハラ描写有り


ジャーファルは十九になる。幼い頃は細身で、肉付きも薄く、男か女かわからない風情であったが、胸が膨らみ、尻に肉も付いた。豊満な、とはいえないが、それなりに女らしい体つきになった。そのせいか、十八になった頃、ジャーファルは他の仲間たちからある提案を申し出られた。

――十八と言えば年頃、年頃の女が男と共に同じ部屋で寝るのはどうなんだ、と。

ジャーファルはきっぱりと言い切った。私は気にしない、と。しかし、俺たちが気にする、とすぐさま反論された。気にするもなにも、いままで一緒だったというのにただ歳を重ねただけで仲間外れとはなんとも切ない。そう訴えたジャーファルに、ヒナホホとドラコーンは神妙な顔で問題点を上げた。いくつか例をあげるとすれば、酒に酔ったシンドバッドが手を出すかもしれないことだった。

実際に酔ったどさくさに乳房や尻を撫で回されることは幾度かあったが、手の甲を捻り上げればそれ以上の接触はない。だから大丈夫だと言いかけて、就寝中に襲われては抵抗する間もない、と思い直して黙り込んだ。そう思われる程度に酔っぱらったシンドバッドへ対する信頼は少ない。酒に弱いシンドバッドは、酔うと理性がゆるゆるのぐっだぐだになる。それこそ、幼い頃に拾い、育てて来た子であっても関係ない。まったく問題である。

次に上げられた問題は、ジャーファル自身が性別を意識しないことにあった。ドラコーンいわく、朝起きて、乳房を丸出しにして、荷物の前で腕を組んで何事か悩んでいるジャーファルの姿を見て言葉を失った、あの時は真剣にシンドバッドに相談した、ということだった。ちなみに、相談されたシンドバッドは、あいつらしい、と笑っただけだったという。

あの時は確か、着替えている途中に、買い忘れたものがあったが一体何を忘れたのかを調べようと思い、見られても減りやしないと気にせず、仕事を優先したのだった。悪いことをした、とジャーファルは大人しく口を噤む。

悪いことをしたと思ってはみても、不服そうな顔をしていたのか、更にヒナホホも口を開いた。湯上がりにマスルールの髪を拭いてやるのはいいが、その時も体を隠さない、目のやり場に困ると眉尻を下げて言われては、ジャーファル用に部屋を取るという提案を受け入れるしかなかった。シンドバッドが、俺は全然気にしないぞ!と朗らかな笑顔で言い切ったのも、決断するひとつの材料になった。

そういう理由から、ジャーファルはひとり部屋で寂しく眠ることになっている。女のひとり部屋ということもあり、扉の鍵もしっかり掛けていた。そんなことをせずとも、そこら辺の男のひとりやふたりあっという間に締め上げられるジャーファルだが、面倒は少ない方がいいと戸締まりはしていた。だが、ひとつだけ例外がある。それは窓だ。ジャーファルはとある理由から窓の鍵だけはいつも閉めない。



部屋の外に気配を感じて、だらしくなくも寝台の上に広げて読んでいた巻物からジャーファルは顔を上げた。視線の先には窓がある。何故窓から、という問いには誰も答えられない。窓を開けて部屋へやってくるマスルール自身が問いかけられて首を傾げるのだから。ともかく、今晩もマスルールはジャーファルの部屋にやって来た。毎回という程ではないが、来訪回数はそれなりに多い。そして、ジャーファルはそれを待ち望んでいた。

「どうしたの?」

巻物を片付けながら問いかけるジャーファルの言葉に何も答えず、マスルールはもぞもぞと寝台の中へと潜り込んだ。眠たげに二三度瞬きをし、ジャーファルの胴体に腕を回し、胸に顔を押しつける。それは昔から一緒に寝る時の癖で、ふたりともすっかり慣れている。だから、その仕草にジャーファルは口角を持ち上げ、マスルールの短い赤毛を優しく撫でた。

「……甘い、匂い」

ぼそりとマスルールが呟く。

「ん、さっきねえ、シンが酔っぱらったまま人の部屋に来て、果実酒をこぼしたものだから、その匂いが残っているんだよ」

困った人だね、と情を込めた声が囁く。頷いた後、抱きつく腕に力を込めた。

「部屋に帰ってこなかったかい?」

シンドバッドはまだ部屋に戻ってはいなかったから、胸に顔を押しつけたまま、ふるふると首を振るう。

「……大丈夫かなあ」

ため息を吐き出すジャーファルを見上げると、また頭を撫でられた。廊下で眠りこけてないといいね、と笑うジャーファルに頷きを返す。
シンドバッドが部屋にこぼしたという果樹酒の匂いが鼻腔をくすぐって、気分を浮き足立たせた。甘ったるい匂いはジャーファルからしているような、そんな気がして部屋に漂う匂いをもっと吸い込みたくなる。しかし、ジャーファルは匂いを消しているのだから、やはりこれは部屋にこぼれた果実酒の残り香であり、ジャーファルの匂いではない。

甘い匂いを吸い込みながら、マスルールはぼんやりと考える。この人の匂いを知りたい。思いついた考えが頭の中でぐるぐると回り、欲望へと変わっていく。汗をかけば、多少なりとも匂いがするのではないか、そんなことを考えた。だが、戦闘の時だってジャーファルはちっとも汗をかかない。武器を握り込め、敵を前に鋭い眼光を投げる姿が脳裏に浮かんだ。いま、優しくマスルールの頭を撫で続けるジャーファルとは正反対の姿。
不思議に思えて、胸元から顔を剥がし、じっとジャーファルを見つめると、応えるように笑顔が返ってきた。

「私の顔になにかついてる?」
「……いえ」
「じゃあ、どうして私の顔なんて見てるの。つまんないでしょう?」

こんな顔見たって、と微笑むジャーファルの顔はいくら見続けても飽きない。少なくともマスルールは飽きないし、こうやってジャーファルの顔を見続けることを好んでもいた。だから、ふるふると首を振る。

「変な子」

白く細い指がマスルールの短い赤毛の中に差し入れられ、ゆっくりと動いた。短く切りそろえられた髪の感触を楽しんでいるようだ。その顔に浮かぶのはやはり優しい笑みで、ふと違う表情を見たくもなった。ジャーファルがマスルールに向ける表情は、基本的に慈愛の顔だ。だからこそ、違う顔が見たくなる。たとえば、怒った顔や、困った顔を。

怒った顔を見るのは難しいと悟っているマスルールは、甘える気持で困らせたいと考えた。いまだ部屋に残る甘い果実酒の匂いが思考をふわふわしたものにしているせいもある。ジャーファルの顔を見続けるのをやめて、腰に抱きついて、胸へと顔を埋めた。

「どうしたの。眠い?」

首を振って、睡魔を否定する。じゃあ、甘えたくなったの?とからかいを含んだ声が問う。それも否定する。

「じゃあ、なにかな」

頭を撫でる指の動きに変化はない。だから服の上から胸を食んだ。びく、と体が跳ねて、指が止まる。だが、何も言わない。胸に埋めた顔をぐいぐいと寄せて、頬を擦りつける。腰に回した手を移動させ、尻に置いた。軽く揉む。

「……っ、こら」

慌ててマスルールを引き離したジャーファルは身を起こし、軽く眉を寄せる。

「どこでこんなこと覚えたの」

どうせシンでしょ、と呆れの混じった声が落ちた。困った顔見れた、と目的を達成したはいいが、なんだか物足りなかった。やわらかい胸の感触や、尻の感触にもっと触れたい。腰の辺りがむずむずする感覚と、心臓がどきどきと速いこと、先ほどから体の熱が上がっていること、それらを総合してマスルールは自覚する。自分は欲情しているのだと。

同じように身を起こし、無言のまま顔を近づける。視界には驚いて目を見開くジャーファルしか映らない。唇が触れるか触れないかのところで動きを止め、静かに息を吐き出した。びくり、とジャーファルの体が跳ねる。

「……唇、くっつけていいですか」
「く、口づけしたいってこと?」
「はい」
「ねえ、きみ」

肩を押されて、体の距離が、ジャーファルの唇が離れた。

「もしかして酔っぱらった?」

ほっぺた赤いよ、と手のひらでマスルールの頬に触れ、じっと顔をのぞき込む。

「ファナリスは鼻がいいから、部屋に残ったお酒の匂いで酔ったんじゃないかな……」

心配そうに眉を寄せるジャーファルを見つめながら、考える。このふわふわした感じは酔っているからだろうか。ジャーファルに対して悶々とした感覚を抱くのも酔いのせいだろうか。状況の一端は、担っているかもしれない。だが、そればかりとは思えなかった。この欲望はずっと体の奥底にあったものだ。

「酔い、のせいだけじゃ、ないっす」

たぶん、と呟いて、口を噤む。もしかしたらジャーファルなりの遠回しな拒絶だったのかもしれない、と思い至ったからだ。実際に口づけしていいかに対する返事はなく、体を引き剥がされただけだったし、その行動理由も酒のせいにされた。

「……そうなの?」

こくんと首を振る。

「ふふっ、そうなんだ」

密やかな笑い声は優しい。拒絶の色はどこにもない。ジャーファルの手が伸びてきて、マスルールの頭を撫でた。

「きみがしたいなら私はかまわないよ。でも、どうせならもっと可愛い子としたいでしょ?初めてだったらなおのこと、そのうちできる大切な子のために取っておきなさい」

頭を撫でながらそんなことを言う。呑気にも、マスルールもそういうお年頃なんだねえ、とにこにこ嬉しそうに笑っていた。そういうお年頃の少年と、夜にふたりきり、この状況にかけらも警戒を抱いていない。

「…………ジャーファルさん、は」

急激に体が熱くなった。自分の口から出す言葉だ。何を言うのかマスルールは理解している。だから、心音が速まり、体温が上がる。ジャーファルの顔を見ているのか怖くて、顔を伏せた。

「か、わいい」

ぽつりと呟いた言葉への返事はすぐにはなかった。数分待ってもなかった。心臓の音が、体中に反響して、呼吸を薄いものにする。息苦しさと緊張、気まずさ、それだけが空間を満たした。やがて首が痛くなってきた頃、おそるおそる顔を上げると、硬直し、目を見開いたままマスルールを見つめるジャーファルの姿があった。

「……どこで、そんな」
「いつも思ってたことを、言っただけっす」
「…………」

じわじわと首まで赤く染めていくジャーファルは、マスルールの視線から逃げるように体ごと反らした。手のひらで顔を押さえ、頬の赤さを隠そうと必死だ。
シンドバッドはよく言う。お前は可愛いなあ、と。そう言ってジャーファルの頭を撫で、マスルールの頭を撫でる。シンドバッドに可愛いと言われたジャーファルは、どこか嬉しそうに、でも言われ慣れているといった態度で、決して頬を赤らめ、照れたりはしない。シンドバッドの言葉と、自分の言葉、同じ単語なのにどうして反応が違うのだろうと首を傾げる。態度が違う理由を知りたくて、マスルールは膝を詰め、両手のひらに隠された顔を見つめて再度口を開く。

「ジャーファルさんは、かわいい」
「わ、かったから、もう言わなくていいです」

消え入りそうな声が答える。

「……ジャーファルさん」

更に距離を縮め、ジャーファルの手首を握りしめた。抵抗なりあるかと思ったが、ジャーファルはおとなしく手を引き剥がされた。手を引き剥がされて、守るもののなくなった横顔には困った色が浮かんでいる。

「かわいい」

同じ言葉をもう一度。嘘偽りない言葉だった。最初はぎこちなかったが、何度か口に出すとその言葉はひどくしっくりと唇に馴染んだ。ジャーファルさんはかわいい、口の中でちいさく呟いてみると、心臓がむずむずして、くすぐったくて、ぎゅうっと苦しくなった。

「……ませたことして」

困った顔に、拗ねのような、苛立ちのような色が混じる。かわいい、そう伝えることがませたことになる理由はわからないが、ジャーファルにとってマスルールは実年齢よりももっと幼い子供で、恋愛、ましてや欲望など一切知らない純粋な存在だと思っている節があったから、そんな言葉も出るのだろう。

十四ならば、十分に性的なことに興味を持ち、好きな子のひとりやふたりいてもおかしくないことを、ジャーファルは理解しない。マスルール以外の少年に対しては理解しているくせに、マスルールも同じであるとは一切考えないのだ。なぜなら、マスルールは可愛いから。そんな子に、かわいい、と思われていることなどジャーファルは想定していない。要は動揺したのだった。
動揺を落ち着かせるように深く息を吐き出すことしばし、きりりっと表情を引き締めたジャーファルの顔から赤みが引いていき、マスルールは残念に思う。

「もう夜も遅いから寝よう。……今日は、自分の部屋に戻って眠るでしょう?」

声の調子はいつもと同じだった。だが、共に過ごしてきたマスルールには、普段通りの声に潜むかすかな震えを感じ取ることができた。大体、いままでずっと何の意識もせずに一緒に眠っていたのに、今日に限ってマスルールを追い出そうとしているのだから、心境になんらかの影響を及ぼしたのは間違いない。

「さっき」
「うん?」
「していいって言いました」
「何を」
「……唇、くっつけるの」

ジャーファルの腕を掴み、ぐっと顔を近づける。逃げようと身を引く分だけ、体を近づけていけば、いつの間にか押し倒す形になっていた。

「ジャーファルさんが、いいって言いました」
「何度も、言わなくていいから……」
「……」

それ以上は何も言わず、じっとジャーファルを見つめる。視線から逃げるように顔を反らされても気にせず、見続けていると、また頬が赤くなってきた。ちらちらと視線を向け、マスルールの出方を窺っている。マスルールの選んだ選択は、ジャーファルが応えるまで待つ、だった。覆い被さった状態のまま、静かに、無言でジャーファルが口を開くのを待つ。だが、ジャーファルは唇をもごもごと動かすばかりで、声を発しない。やがて、そうしてもいてもマスルールが引くことはないと悟ったのか、ため息のあと口を開いた。

「…………どうしても、したいなら」

返事が与えられたのを合図に、顔を近づけて、おそるおそるジャーファルの唇に唇で触れた。やわらかい感触に、心臓が震える。体を震わせる電流に促されるまま、再度口づけた。そのまま頬や鼻先、そばかす、それから首へと唇を落とす。いつの間にか勝手に動いていた手のひらは、ジャーファルの、大きいとはいえないささやかな膨らみを掴んでいた。

「こ、こら。触っていいなんて一言も」

ぺち、と痛みを伴わない平手が手の甲を叩く。抑止力にもならない。気にせず指を動かし、やわらかさを堪能する。

「もう!だめだったら!」

両腕で胸を守るようにして、ジャーファルが身を捩る。

「……すみません」

肩を落として呟けば、マスルールの顔を覗き込んだ。

「本当に反省してる?」
「はい」
「……もうしない?」
「…………」
「返事は」
「………………」

何も答えないマスルールに、警戒心が生まれたのか、じりじりと距離を取る。丸い目は細められ、探るような視線が向けられた。ここで素直に、しない、と頷けば、ジャーファルは安堵したように笑みを浮かべ、何事もなかったようにいままでと変わらない日常が戻ってくる。あまりにも容易に想像できることで、だからこそ、嫌だと感じる気持があった。

「……だめですか」

ちいさく声を落とせば、今度はジャーファルが口を噤んだ。しばらくの沈黙の後、口を開きかけたのを察し、再度「だめですか」と縋るように見つめる。ジャーファルが口に出そうとしていた言葉は霧散して、開きかけた唇は、二三度開閉してから閉じた。何故か困ったような顔をして、視線を泳がせるジャーファルの手を握り締める。めずらしいことに、手のひらに汗をかいていた。慌てて手を引き抜くジャーファルの顔をじっと見つめる。眉を寄せたジャーファルは困りきっている。

「だ、だめです」

声を搾り出し、そう呟くと、「だめ」と改めて伝えた。

「…………」

だめだとはっきり伝えられて、顔を伏せる。マスルールは自覚していないが、その姿は捨てられた子犬をジャーファルに思い浮かばせた。それもただの子犬ではない。とびっきり素直で良い子で、可愛い子犬だ。そんな子犬が寂しそうに項垂れている姿を見捨てられる訳がなかった。

「すこし、なら」

その言葉に顔を上げて見つめれば、うっ、とジャーファルが息を呑んだ。寂しそうな項垂れた姿から一転、期待に満ちた丸っこい無邪気な目がキラキラと見つめてくる、少なくともジャーファルの目にはそう映った。そのキラキラした目は確かに心をくすぐるに十分だった。だが、代わりに差し出すものが、自分の体なのだから、言葉も詰まるというものだ。

マスルールはぱちぱちと幾度か瞬きを繰り返した後、ジャーファルの顔を覗き込んだ。視線で「本当に?」と問いかけてみれば、更に眉尻を下げる。ジャーファルの弱り切った顔から、更に明確な答えを探そうと真剣な様子で視線を注げば、

「……胸を触る、くらいなら」

言葉が落ちた。その言葉を理解すると同時に、唇を寄せ、また口づける。ちゅっ、ちゅっ、と唇や頬に唇を押しつけながら、手を伸ばし、胸に触れた。ジャーファルの胸のやわらかさは頬が知っている。眠る時にささやかな膨らみの乳房に頬を押しつけながら眠るのは心地良かった。やわらかさもだが、穏やかな心音が安眠へと導く。だが、いま穏やかさはどこにもなかった。
寝間着の上から膨らみを揉み、撫でる。しばらくの間、夢中で触っていたが、布の感触が邪魔に思えてきた。腰帯を解き、襟元を寛げる。

「ッ、触るだけって言ったでしょう?」

慌てて寝間着を掻き寄せるジャーファルの目を真っすぐに見つめ、こくんと頷く。

「触るだけ」

そう言って、手を滑り込ませる。赤く灼けた肌が白い肌を探り、なだらかな曲線を描く乳房を包み込んだ。

「服の上から!」

頬を赤く染めながら訴えるジャーファルの手首を掴み、寝台に押しつける。マスルールはファナリスだ。性別の差もあった。拘束から抜けようと身を捩るが、マスルールの手はぴくりとも動かない。手首を押さえつけたまま、鎖骨に唇を寄せて、軽く噛む。

「手、離しなさい。ね?」

言い聞かせる声が耳朶を打つが、気にせず舌を伸ばし、肌を舐めた。微かに体が跳ねる。そのまま舌を滑らせ、白い胸へと移動させた。めずらしく焦った声を上げるジャーファルは、なんとかやめさせようと身を捩り、制止の言葉を投げかけるが、マスルールには届いていない。マスルールの中にあるのは、胸を触るだけならいい、と言ったジャーファルの言葉だけだ。マスルールがしているのは、触るではなく、舐めるだが、手で触るも舌で触るも変わりはない、と勝手に結論付けていた。

「もう!だめだって言ってるでしょう!ちゃんと聞い、……ッ!」

はむ、と乳首ごと胸を食み、軽く吸い上げる。唇を動かし、舌先で突く。吸い上げるごとに、体の震えが伝わって、釣られるように体の芯が震えた。

「や、やだったら……」

弱り切った声が響く。手首を掴んでいた手を離し、吸いついていない方の乳房を揉み込む。解放された手がすぐさまマスルールの肩を押すが、力で押し退けることは不可能だった。

「くすぐったい……!」

必死に押し退けようと身を捩らせるジャーファルの動作を気にすることなく、夢中で触り、吸いついていると、やがて諦めたように体の力を抜いた。抵抗がなくなって初めて胸から唇を離し、顔を上げる。ジャーファルは困ったように笑っていた。

「……赤ちゃんみたい」

そんな一生懸命吸って、とちいさく息を吐き出した後、マスルールの頬を軽く摘む。むにむにと頬を摘んだ後は、髪を撫で回した。

「満足した?」
「…………」
「もう寝よう。明日も早いから」

マスルールは何も答えない。けれども、納得してくれた、と思い込んだジャーファルは胸元を隠しながら身を起こそうとした。マスルールはまだ覆い被さったままだ。

「マスルール?」
「……もう少しだけ」
「…………」

眉間に皺が生まれる。その皺を見つめた後、胸元へ顔を落とす。

「いいって言ってないよ?」
「はい」

頷いて、頬を胸に押しつけた。「仕方ない子」と呆れた声が頭上から落ちて来て、それから指がいつものように髪を梳く。甘やかすばかりの手に安堵して、胸に吸いつき、できる限り優しく手のひらで触れた。マスルールの髪が肌を刺激するのか、時々ジャーファルはくすぐったそうに身を竦め、ちいさな笑い声を響かせた。それから、息を吐き出しもした。その呼吸には確かに熱が含まれていた。白い肌は薄らと上気し、マスルールの手のひらはわずかな湿り気を感知する。

「……っ、はぁ、……まだ?」

吐息と共に問いかける声がマスルールの髪を揺らした。ジャーファルの乳房は唾液塗れで、乳首は刺激により起ち上がっている。胸元から顔を上げれば、上気した頬と潤んだ目がじっとマスルールを見つめていた。最初は胸を触るだけで満たされると思っていた欲望は、どんどん膨れ上がり、足りないと訴えている。

ジャーファルの問いに答えることができず、口を噤むと、眉を寄せながらも「もうすこし?」と口角を持ち上げた。許しに安堵し、手のひらで乳房を包み込み、指先でやわらかさを楽しむ。再度視線を上げれば、ジャーファルはぎゅっと目を閉じ、耐えているようだった。腰の辺りが疼く。胸に甘ったるい疼きが走って、落ち着かなくなった。無意識に言葉が落ちる。

「……かわいい」
「またそんなこと言って」

薄らと目蓋を開いたジャーファルは唇を尖らせて、マスルールを見る。

「これ以上は許しませんからね」

そう言って、頬を緩めた。こくん、と頷いて、また手を伸ばす。手のひらで包み込み、優しく撫でる。指で先端を摘まみ上げれば、短く息を呑んだ。片方の胸に吸いつき、片方の胸は指で弄り倒す。

「……っ、ん、……はぁ……」

体がびくびくと跳ね、甘い切なげな吐息が耳朶をくすぐった。これ以上を許してくれないのならば、せめて吐息を抑えてくれないだろうかと顔を上げれば、潤んだ目と上気した頬が迎える。声を抑えようとしてか、噛み締められた唇は赤い色をしていた。顔を近づけ、唇を押しつける。何度もちゅっちゅっと音を立てながら口づけし、舌を伸ばして唇や頬を舐めれば、肩を震わせて笑いだした。

「今度は、子犬みたい」

先ほどから赤子だの子犬だのと、非力で愛らしいものの名前しか出て来ない。そのことに多少の不服を抱きながらも、いまはただジャーファルの体に触れていたくて、マスルールは不満の言葉を飲み込む。幾度も唇を落としながら、唇から顎、首、鎖骨へと降りてゆく。はだけられた白い胸は桃色に色づき、汗で湿っていた。かぷり、と肩口に噛みつき、すこしだけ強く噛む。歯形が残ったことに満足し、また胸へと顔を埋めた。いくらもてあそんでも飽きることがない。すべすべとした肌の感触や、すこし力を入れただけで形を変えるやわらかい肉、髪をくすぐる吐息、それらをいつまでも感じていたかった。だが、それだけでは物足りないのも事実で、性器が張りつめてひどく苦しい。胸をまさぐっていた手を下方へ滑らせ、寝間着の裾に潜らせた。

「……ッ!」

するりと入り込んだ腕を止めるために身を起こそうとするジャーファルに体重を掛けるように伸しかかる。マスルールの指先は足の傷を撫でている。傷跡は太股へと続いているから、自然、傷を撫でる指も上がっていった。呼吸が荒くなり、体温が上がる。体中を暴れ回る熱をどうすればいいのかわからず、頭の中はジャーファルのことでいっぱいになった。

「だめ!」

短く言い捨てられ、指を止め、ジャーファルを見つめる。

「……そ、そんな顔したってだめ、なんだから……」

言葉を詰まらせるジャーファルをただ見つめる。

「ジャーファルさん……」

無理矢理に声を搾り出す。なに、と視線で問いかけるジャーファルの肩に顔を埋めて、

「……くるしい」

それだけを吐き出した。もっと近くなりたい、もっと触れたい、体の距離をなくしたい。そればかりが頭の中を巡る。呼吸が苦しくて、目頭が熱を持っている。鼓動はさきほどから落ち着くことはなく、激しく鳴り続けていた。どうすれば、この熱を収めることができるのかわからなかった。自慰の方法は知っている。けれども、それで収まるとは到底思えなかった。体の芯から湧き上がる欲望をジャーファルに受け止めて欲しい。
ジャーファルは何も答えない。長い沈黙の後、優しく頭を撫でられた。何度も何度も繰り返される手のひらに、すこしだけ熱が落ち着き、かわりにどうしてか泣きたくなる。

「きみが」

ジャーファルの声は震えていた。

「……もうすこし、大人になったら」

顔を覗き込むと、視線を反らされた。続く言葉を聞きたくて、横顔を見つめる。

「私でよければ、だけど」
「あんたがいい」

悩むより先に言葉が出た。ジャーファルの首が一瞬で赤くなる。

「わ、わかりました。……だから、今は退いて」

そう言って、身を捩り、抜け出そうとするジャーファルの手首を掴み、寝台に押しつけた。

「最後まで言ってない」

続く言葉を聞かなければ、引くことはできない。

「……きみが大人になったら、最後まで、してもいい」

声を搾り出した後、深く息を吐き出す。

「これでいい?」

こくり、と頷いた後、もう一度抱きつく。ぎゅうぎゅうと力を込めて抱き締めると、苦しいよ、とちいさな笑い声が響いた。緊張が解けて、気が緩む。それはジャーファルも同じだったようで、体の力は弛緩していた。手首を掴んでいた手を移動させ、また膨らみを包み込む。

「もうしないんでしょう?」

困惑の混じった声が問いかけた。無言のまま乳房を撫で、乳首を指の腹で挟み込んで転がす。

「……っあ」
「胸、触っていいって言いました」
「んん、確かに言ったけど、でも」
「ジャーファルさんが言った」
「…………」

そう言われると弱いのか、唇を噛む。大人になったら欲望を受け止めてくれると約束してくれたはいいが、問題はいま抱えている欲望だった。胸に吸いつきながら、己の性器を握り込める。どくどくと脈動する性器は多少の刺激ですぐに達してしまいそうだ。

「マスルール」
「はい」
「ちょっと退いてごらん」
「……」
「大丈夫だから」

胸から唇を離し、仕方なく性器から手を離す。起き上がったジャーファルはそのままマスルールの方へ身を寄せた。

「慣れてないから痛かったりしたらごめんね」

そう囁き、手を伸ばす。状況が理解できないままジャーファルの動作を眺めていると、白く細い指がマスルールの下穿きの中に滑り込んで、優しく性器を握り込めた。

「……っ」
「あ、痛い?」

不安げな声に首を振って否定を示すと、安堵したように笑みを浮かべる。

「やり方、よくわからないからどうしたら気持良いか教えてね」

そう言いながら優しく上下に手のひらを動かす。どうすれば気持良いのか教える間はなかった。

「ありゃ」

下穿きから抜き取ったジャーファルの手は、吐き出されたばかりの精液に塗れている。

「ええと、やり方……間違ってた、かな?」
「いえ、……いっぱいいっぱいだったんで」
「そうなの?」
「……はい」

体が羞恥で熱くなる。表情に変わりはないが、ジャーファルにはわかったようだった。

「ふふっ、可愛い」

ちゅっ、と頬に唇が押し付けられ、すぐに離れた。

「きみがあんまり可愛かったからつい」

楽しそうに笑いながら、布で手のひらに残る精液を拭き取るジャーファルは上機嫌に見えた。仕返しなのかもしれない、とマスルールはぼんやり考える。そう思ってこちらに背を向けるジャーファルを見れば、銀髪から覗く耳に赤みが残っていた。そのことに何故だか安堵する。
精液を拭き取ったジャーファルは、はだけていた胸を隠すようにして寝間着を掻き寄せている。その背中にぺったりと張りつき、肩に顎を乗せると、「まだまだ子供だねえ」と嬉しそうな、優しい声が落ちてきて、マスルールはとても複雑な顔をした。


:その後。おっぱい弄り倒されたジャーファルおねえさん、巨乳に。そして二十歳になっても子供扱いでお預けなマスルール。

  
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