若シン子ジャ


/無理矢理


「離して、ください……!どうし、て……、いやッ」

先ほどから何度も何度も制止の言葉を繰り返すが、腰の動きは激しさを増すばかりで止む気配はない。思いきり突き立てられ、背が仰け反る。逃げようにも腰を抱きとめられ、身を引こうとする度に引き寄せられ、更に深いところへ埋まる。

「……や、やだ、もうやめ……!」

ひとまとめに掴まれ、頭上で押さえつけられた両手首をなんとか振りほどこうと身を捩るが、力で敵う訳もなかった。拒絶の言葉を口に出す度に手首を掴む力が強くなる。骨の軋む音さえしそうだ。痛みと拒絶と恐怖から、閉じた目蓋からは際限なく涙が零れた。目を開けるのが怖かった。どんな顔で犯しているのか知りたくなかった。この人が望むならば体などすぐに差し出しただろう。どんな酷い扱いを受けても良かった。それでも、いきなり引き倒され、覆い被さり、ろくに準備もせずに無理矢理押し開かれれば恐怖が勝る。揺すり上げられ、擦り続けられている性器が熱を持って痛む。おそらく初めて男を受け入れたその箇所からは血が流れただろう。しばらくして、体の奥のところへ熱く迸るものを感じた。嫌悪か、それとも別の理由か、体が震える。もっとも信じ、頼りしていた人がいまは誰よりも怖かった。噛み殺し切れなかった嗚咽が歯の隙間から零れる。

「……目を開けろ」

静かな、落ち着いた声が降ってきて、顔を見ることを促した。出来ないと首を振るう。手首がいまだ拘束されたままなのが怖い。まだ終わっていないと暗に言われているような気がする。

「ジャーファル」

名を呼ぶ声に心臓が凍る。普段の声音と違い、冷たさがあった。目を閉じたままでいれば、もうお前はいらない、と捨てられるのではないか。それは膿むような痛みや、無理矢理強いられたことなど吹き飛ばすほどに恐ろしいことだった。おそるおそる目を開け、覆い被さるシンの目を見つめる。涙でぼやけてはっきりと捉えられないのは救いだった。

「お前はまだ気持良くなってはいないだろう」

この状態で快楽を得るなど不可能に思え、必要ない、と首を振る。はやく抜いて欲しかった。はやく手首を離して欲しかった。気持良さなんていらない。いつもの笑顔で名前を呼び、頭を撫でてくれるだけでいい。それだけで何もかも忘れてしまえる。欲しいのはそんな些細であたたかい、シンが与えてくれるものだ。だが、何を言えばいいのだろう。見下ろす瞳は、獰猛な獣の金色で、その目はまだ足りないと強く訴えている。涙がこめかみを流れた。

「何故泣く」

理由が分からぬ訳ではないだろうだろうに、そんな問いをする。

「……あなたが、こわい」

散々泣き叫んだせいで掠れてしまった声で答えれば、そうか、と目を細めた。その目に一瞬だけ後悔が浮かび、けれど次の瞬間には消え去る。唇を塞がれた。軽い啄みから深い口づけへと移行してゆく。舌を絡めとられ、吸い上げられた。どうしていいか分からない舌は翻弄され、唾液が口の端から零れて落ちる。そのうち、いまだ抜かれていない萎えていた筈の性器が再び固く膨れていくのが分かった。咽が引きつる。唇を引き剥がし、叫ぶように訴えた。

「お願い、抜いて……っ」

懇願に腰が引かれる。途中まで引き抜かれる感触に安堵するも、次にどうされるかは体が理解していた。予感に震え、しかしどうすることも出来ず、懇願の言葉を繰り返し、頭を振るう。引いた後は押し込められる。嫌というほどに繰り返された行為を体は覚えている。違ったのは、さきほどとは正反対にひどくゆっくりとした動きだったことだ。肉の壁を丁寧に擦るように動く。それを何度も何度も繰り返される。足の指に力が籠る。痛みではない感覚に目を見開く。いや、いや……、と力なく呟けば、ちいさく笑い、手を離した。解放されると同時に胸に手を押しつけ、引き剥がそうとするがぴくりとも動かない。拘束していたために自由になっていなかった手は、なだらかな膨らみをやわやわと揉みしだいている。鎖骨を一度だけ食み、舌が肌を滑った。胸を吸い上げられ、背筋が仰け反る。知らず引きつった、けれど甘さを含んだ声が零れた。もはや否定の言葉すら吐き出せず、音だけが意味もなく吐き出される。二度目の射精を受け止めた時、抵抗する気力はどこにも残っていなかった。それでも最後の力を振り絞り、抜いてほしいと懇願する。何度目かの懇願の末に引き抜かれ、解放された安堵感から意識が遠くなる。このまま眠ってしまいたい。体中、唾液と体液でべとべとしていたが気にならなかった。それを邪魔したのは、伸びて来た腕で、俯せにされると同時に腰を引き上げられる。液体が太腿を伝う感触に肌が粟立つ。目を閉じる。枯れ果てるほど泣いたと思ったのに、熱い涙がまた頬を流れた。

「もう、もう……ゆるして、ください」

熱い塊が押し当てられる。

「ごめんなさい、私が、私が……」

自分でも何を言ってるのがよく分からない。私が悪かった、だから許して、とようやくのこと吐き出した言葉に、密やかな笑い声が返ってきた。

「何故だ。お前は少しも悪くないだろう」

ではどうして私はこんなことをされているのだろう。今度は抉るように押し入ってくる。何度も蹂躙されたそこは難なく猛った性器を呑み込み、簡単に奥まで招き入れた。

「謝らなくていい。俺を罵れ」

甘い声が響く。酷いことを強いている筈なのに、声は甘く優しい。出来ない、と首を振る。あなたを罵るなんてそんなこと出来る訳がない。頭の芯が痺れて、思考がぐずぐずと溶けてゆく。

「……だろうな」

呆れまじりの言葉が落とされ、だからこそお前が愛おしい、と囁く声が聞こえた。答えようにも舌が縺れて、上手く喋れない。その後も何度か許しを乞うたが、許されることはなかった。


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「もう気にしなくたっていいですよ」

けろり、とした顔で言うものだから、なんだか憎たらしい。あれから一ヶ月経った。一ヶ月前の夜、独占欲で無理矢理に体を開かれた筈の当の本人は何事もなかったかのように日々を過ごしている。些細な、くだらないことだった。酒場の歳若い男の給仕がずっとジャーファルを見ていた、とそれだけのことだ。それだけのことで独占欲が湧いた。これは俺のものだ、と示したかった。ただそれだけのことで酷いことを強いた。

加害者である俺はいまだに引きずっては、何か食べたいものはないか、何か欲しいものはないかと機嫌を窺っているのに、別にいいですったら、としか返さない。それでは俺の気持が収まらない。言えば、もう二度とあんなことをしなければそれでいいですから、と言葉に詰まるようなことを言う。

「……あなたがくれるものは痛みだろうが、なんだろうが、その、嫌ではないので」
「いいや、随分と嫌だと言っていた」
「そりゃあ、あんな乱暴にされたら誰だって言います。でも、あなただからいい、かまいません」
「お前はずるいなぁ」

しみじみと呟く。俺より年下の筈なのだが、俺より大人に思える。

「……ただ」
「ただ、なんだ」
「次は、もっと優しくしてくださいね」

次があればですけど、と頬を真っ赤にして言うものだから、危うくその場で押し倒すところだった。その後も、何度か独占欲を引きずり出されて乱暴に扱い、その度に許され、しかし29歳になってもそのことを思い出しては後悔するなどその時の俺は知らないことである。


:意外と引きずるシン様は萌える。20×16ぐらいのつもり。

  
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