木陰


「……ジャーファル、さん?」

陽射しの暖かい午後のことだった。もっとも夢の国と称されるここシンドリア国は一年を通して暖かい。だが、その日はいつにもまして穏やかで暖かだった。木々が作る陰で二三匹の小動物が丸まって眠っている。野生の動物としていかがなものか、疑問に思いつつも愛らしさに頬が緩む。確かに昼寝をするにこれ以上ないほどに最適だった。それは普段は姿勢正しく背筋を伸ばし、仕事に励む政務官にとっても例外ではなかったらしい。

この人は非番だった筈、と呆れ混じりの笑みを浮かべ、普段通り官服に身を包んで眠るジャーファルさんを見つめる。ぴったりとくっついた目蓋を縁取る睫毛はそう長くない。おそらく王の方が長く濃いだろう。鼻梁はすっと通ってはいるが、鼻の高さはどちらかといえば低い。ぺちゃりとしている。唇は薄く、ちいさい。陽に焼けていない白い頬に浮かぶのは薄茶色のそばかすで、なんとなしにその数をかぞえてみる。顔立ちは地味で、特に目を引くということはない。それなのにどうしてこんなにも心をくすぐるのだろう。黒めがちな目は確かに魅力的だ。まるっこくて愛らしい。怒られるのは嫌いだけど、責めるような視線を向けられるとなんだか胸の奥が痺れるような気になる。手を伸ばし、そばかすを撫でるように頬に触れる。木陰にいるせいだろう、肌の感触はひんやりと心地良かった。起きる気配はない。そろっと唇に触れる。指先に触れるやわらかさに居たたまれなくなって慌て

  
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