想い結び、恋結び(1/3)
『俺は冬馬と違って、酒は量より質だからね』
まだ付き合い始めたばかりの頃、秋羅さんが冗談めかしてそう言っていたのを、ふと思い出した
「俺の好きな酒の銘柄? そうだな‥‥アレとかは最近気に入ってよく飲んでるよ」
「え‥‥‥?」
今私達がいるのは、落ち着いた雰囲気のお洒落なカウンターバー
カウンターの奥の棚には、たくさんのお酒の瓶がセンスよくディスプレイされている
その中の一つを指差しながら、秋羅さんがそらんじるようにいくつか口にしたのは、私には聞き覚えのない名前ばかりで
きょとん、としている私に気づいた秋羅さんはフッと笑って私の髪に手を伸ばした
「知らなくてもいいよ‥‥‥みのりちゃんが飲んだら、確実に一杯で潰れちゃうようなのばかりだから」
秋羅さんの指先は、そのままするりと下に降りて私の肩を包み込む
(わっ、秋羅さんてば、人前なのに‥‥‥!)
店内は暗すぎない程度に照明が落とされているとはいえ、顔の判別くらいは充分に可能だったから
「あ、秋羅さんっ」
「ん?」
店内に流れるジャズに紛れて、小声で呼び掛けたけど
素知らぬ顔の秋羅さんは、更に手に力を込めてくる
そんなに強く抱き寄せられている訳じゃないのに、なぜか振りほどく事は出来なくて
(もう、知らない‥‥!)
私は、真っ赤になった頬を秋羅さんから隠すように俯いた
それなのに
「みのりちゃん? みのり‥‥‥つれないな、せっかくのデートなんだからもっと顔、見せてよ?」
「‥‥‥‥っ」
完全に私の反応を楽しんでいる秋羅さんを軽く睨んだ時
「お待たせしました」
とバーテンダーの声がして、秋羅さんの前に新しいグラスが置かれた
グラスを満たしているのは、鮮やかな深紅のカクテル
薄暗い店内でも、かすかな光を反射して赤く揺らめいている
「う、わあ‥‥キレイ」
私が目を輝かせるのを黙って見ていた秋羅さんは、しばらくして口元に意味ありげな笑みを浮かべた
「みのりちゃん」
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