シークレット・キス(1/3)
「ねえ聞いてよ、みのりお姉ちゃん。春お兄ちゃんってばひどいんだよ」
春の実家近くの、小さな公園。
ベンチに座る私の目の前で、春の妹の未来ちゃんがプウと頬を膨らませている。
桜前線が日本を縦断していくこの季節。
いつもは人気のない地元の公園にも、満開の桜の木を一目見ようとたくさんの人が集まってくる。
その様子を目にした未来ちゃんは、春に『私もお花見に行きたい』とおねだりしたらしい。
(…お花見。あの、春が?…さすがにそれは、難しいんじゃないかな…)
純粋に桜を愛でるだけならまだしも、桜の木の周辺で宴会騒ぎをする人達と春はどう考えても馴染まない。
それに、春が来た事で騒ぎになったりしたら。
まだ幼い未来ちゃんにとって春は『芸能人』である前に『大好きな春お兄ちゃん』だ。
兄弟思いで、たった一人の妹の未来ちゃんには特に甘い春だけど今回ばかりは………。
二人をよく知る私もそう思ったのだけれど。
「お兄ちゃん、いいよって言ってくれたんだよ?…それなのに………」
唇を噛み締めて泣きそうな顔をした未来ちゃんの小さな体を、私はそっと抱きしめた。
そうなのだ。
今日はオフだったはずの春に急な仕事が入ってしまって、私と未来ちゃんはこの公園で春と過ごすハズだった時間を持て余している状態だった。
それにいつもならお花見に来る人でいっぱいのはずの公園は、今日の春先とは思えない寒さのせいで私と未来ちゃん以外には誰の姿もない。
「……もーう、春お兄ちゃんのウソツキ〜、イジワル!」
未来ちゃんがピョンピョンと跳びはねながら叫んだ時。
ベンチに座る私の後ろに、誰かが立った気配がして。
「俺が何だって?」
という呟きが聞こえた。
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